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障がい者も気軽に外出を楽しめる社会を

私が勤める診療所ではリハビリテーションを行っているため、様々な障がいを抱えた方たちがやってくる。
Dさんは脳血管障害で体の麻痺が残り、車いすの生活を送りながら夫Eさんの介助でリハビリに来られている。
最近は外出できる体力がつき、夫婦でスポーツ観戦などにでかけられるようになった。

ある日診察室で、Eさんが夫婦でお酒を飲みに行けたと報告してくれた。しかもはしご酒。
元々お酒が好きだったDさんに「それは良かったですね、楽しかったでしょう。」と話すと、
「(お店や知人に)申し訳なくて。迷惑かけた。」
と返ってきた。
車いすに乗り、飲食に介助が必要なDさん。居酒屋でお酒を飲むには色んな人のサポートが必要となる。
Dさんは気を使われる居心地の悪さが上回ったのか、お酒を楽しめなかったようだった。

障がいを抱えた人は、外出できる場所が制限されている。
周囲に迷惑をかけると、本当は行きたいところを我慢していることが多い。
家の中で、下手したら自分の部屋だけで1日を過ごしている。
障がい者は健常者とは異なる、安全に過ごせるごく狭い世界で生きている。健常者が障がい者の日常を目にする機会は少なく、接することもほぼ無い。
私は、障がいがあってもどんどん外出してほしいと思う。
障がい者がいるのが当たり前、行く先々で「どうぞ、手伝いますよ」「車いす用にスペース作りますね」などと自然に配慮しあえば、もっと彼らは気軽に外出できるようになる。

私たちもいつ障がいを持つ側に回るかわからない。
日本人は「他人に迷惑をかけたくない」という気持ちが強いが、「もともと他人に迷惑をかけるのが当たり前だから、困っている他人がいたら助けよう。」と当たり前に行動できるよう変わっていくといいな。
そして障がいを抱えても健常者と共存でき、自信を持って生きられる社会になってほしいと願う。
Dさんが周囲に気を遣うことなく居酒屋でくつろぎ「ああ、楽しかった」と思えるように。

市川沙央著「ハンチバック」

芥川賞を受賞した市川沙央さんの「ハンチバック」を、世間は驚きを持って迎え入れた。
先天性疾患で障がいを持つ市川さん。
健常者に対する怒りを抱えながら生きている主人公の釈迦は、おそらく市川さんの日々の想いと重なる部分が多いのだろう。
障がい者も健常者同様の欲求や感情があるし、障がいがあってもできることはたくさんある。
市川さんはそれを体現してくれたと、私は本を読んでとても嬉しく感じた。
障がいを持つ人たちへの理解をより深めていく良いきっかけになってほしいと思う。