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1年に「大学2つ分の美容医療医」が生まれているニッポン

医療従事者だけが閲覧できる某サイトで、12月26日に日本医学会連合から厚生労働省等に提出された「専門医等人材育成に関する要望書」が話題になっていた。

「日本医学会連合」とは、医学・医療における研究・教育を担う医学系の142 の学術団体が集まった団体。
今、日本で各科専門医や研究者の人材育成の現場で起きている問題を検討し、国へ要望書を提出したという。
医師は国家試験合格後、大半が大学での研修を選択してきた。各自進みたい科で「専門医」という資格を取得すべく臨床業務にあたると同時に、研究や教育を通じて医師という人材が育成される。
研修医は臨床について上級医から教育を受け、研究を通して医学の視点を深める。そして後輩を育てる。
医師が一人前になるのに大事なプロセスでもある。

要望書のなかで、最近は大量の研修医が臨床経験を十分に積まないまま、保険外の美容医療分野に流出しているという。
その数「大学医学部2つ分」。日本の医学部は82校あり、毎年9000人余りが医師になる。1校100名前後だから、約200名が毎年美容医療関係に採用されていることになる。
これまで美容外科医が全医師に占める割合は0.2%(2018年厚生労働省統計)だったというから、その数の多さが際立つ。
美容外科医の平均年齢は43歳。キツくて研修医から人気のない外科医の平均年齢は53歳だから、実際若い医師が美容医療に集中しているとわかる。
今の若い医師は、臨床・研究・教育の多大な業務のため長時間拘束される割に給料の良くない大学病院を選ばなくなっているという。
若いうちから高収入を得られる美容医療を選ぶのだろう。
結果的に教育や研究、地域医療に従事する人材は減っていく。

私は美容医療を否定するつもりはない。
しかし、美容医療を選ぶ彼らに「なぜ医師を目指したのか」と問いたい。
医師として病や老いに苦しむ人を助けるためではなかったのか。
生活に困る人が増加するこの日本で、自分の容姿に困り、高額の美容医療を利用する人が今後急増するとでもいうのか。
ルッキズムを助長することにならないか。
容姿に悩む人を救う役割はあるにしても、彼らの心にちゃんと寄り添えているのか。

医師は、人の命や人生を任される大切な職業。その重責の対価としてお金が支払われている。
高校の成績が良かったからという理由だけで「高給取りになりたいから医師に」と安易に考える人のいかに多いことか。
「金儲けしたい人」ではなく、「人の命を責任もって診るという使命感を常に持ち、努力を惜しまないと誓える人」が医師として選ばれるべきだと私は思う。

医師がこのように偏在してしまうのは、各科が必要医師数を算出せずに無計画に新人医師確保に走り回っているからでもある。
各地域にどの科の医師が何人必要なのか、数字で決めて医師を配置する方法をとらないと、医師の偏在はどんどん加速するのだろう。
また、従来の大学医局の運営は医師の「自己犠牲」の上に成立してきた。
これからは、医師の働き方改革について真剣に考えてほしいとも思う。

朝焼けに染まる富士山。今年もあとわずか。

日本にそんなにたくさんの美容外科医はいらない。
金儲け至上主義の医者もいらない。
求められているのは、お金より患者のために動ける医師。
全国各地域で、患者が安心して命を預けられる医師だ。
そんな医師が身を削らずして診療に教育・研究に打ち込める環境がやってくることを願いたい。