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【#13】夜中にジャムを煮る

という題名の平松洋子さんの本があるけれど、昨晩の僕はキッチンに立つ口実のため林檎を2つ買った。働き方改革で徹夜も減り22時以降オフィスにいることが減った、ここ最近。22時など「まだまだこれから」だったし、そもそも企画を生業にしている都合上アイデアがいつ出るかなんて僕にもわからない。「締切が仕上がり」。時間いっぱいまでカラッカラに乾いた脳からアイデアの一滴が滴り落ちるまでが、仕事だった。でも帰りが遅かろうが早かろうが料理はしたい。そんなだったら料理を生業にすればよかったじゃないかと思うほど熱に浮かされている僕だって、流石に妙な時間帯からガチの料理を作る訳にはいかない。 でもでもでも。

仕事の帰り。いずれにせよスーパーには寄るつもりだった。バドワイザーを2缶。”アロマホップ”など最近は香り高いものが多いが、ごはんの邪魔をしない淡白なものがいいから、バドワイザーかオリオン。自動ドアを進むと林檎が積まれていた。「決まった。ジャムだ。」これでキッチンに立てる。しかもジャムを煮る時間ずっとキッチンにいられる。ジャムを煮て、バドワイザーをあけながら本を読むなんて最高じゃないか。いつもなら右肩下がりに終わる一日の締めくくりが、静かに熱気を帯びてきた。

くるくると林檎を剥く。剥いたら山芋の短冊風に刻む。それをまた半分に切った。短い短冊。ヴェリーショート短冊。林檎は厄介だ。刻んでいる間に目まぐるしく酸化して黒くなる。予めボウルに薄い塩水を用意しておき、切ったものから入れていく。

雪平鍋に水気を切った林檎を入れ、砂糖をかける。林檎2つに対する砂糖の量は200gがいいらしいけど、そんなの好みの問題だ。目分量で、ちょっと少なめにしたと思う。ただし少な過ぎはジャムの日持ちを悪くする。シャレオツな薄味じゃなく、ちゃんと甘いジャムにすると諦めた。そこへレモン汁。食卓レモンよりは、レモン。食卓レモンは素晴らしいけど味がエッジィだから。レモンは真っ二つにしたものを、さらに1/4。それを絞って木べらでざっと混ぜ合わせたら、待つ。ジワっと水分が出てきたら火を入れる。急がず焦らず、火力は10のうち1。

水分がどんどん出たあとは”とろん”としてくる。時折木べらで潰しながら、荒濾し林檎をイメージして。ねっとりやや茶色を帯びてきたら、最初と同じサイズのレモンを絞って火を止める。

粗熱をとる間に瓶の準備。熱湯で殺菌をする。その時使うトングも殺菌。
熱湯から取り出した瓶は熱湯を捨てた鍋の中でそのまま放置すれば、熱で勝手に乾いてく。ジャムも瓶も、粗熱が取れたら瓶詰めして完成。

ひねり技としては、あの高くて有名なカルピス社のバターを少し混ぜて林檎ジャム・バターにしても、これまたよい。自分で作るジャムは、あっと驚く味じゃないけれど林檎と砂糖とレモンしか使ってないから、ひたすらに素朴で”そのままの味”がする。それよりもなにより、台所にいられる。



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