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006.やさしい嘘のこと

元彼が結婚したらしい。
本当は良くないんだけど、こっそり覗いていたFacebookで結婚報告をしているのを見てしまって、自分が思っていた以上にショックを受けている。

彼は時々自分にとって都合のいい話をする人で、そこがちょっと苦手な反面、人間臭くてとても好きだった。
自分のために残酷なまでに人を切り捨てられる潔さが羨ましかったのかもしれない。

最後のお別れの日、「今は恋愛って気分になれないから友達に戻りたい」って言われて、「わかった」としか言えなくて。
貰った指輪や合鍵をその場で返して、帰り道の井の頭線でバカみたいに真顔でダバダバ泣いて、正面に座っていたサラリーマンに席を譲ってもらって。

後日、彼のFacebookが別れた翌日から交際中になっているのを知って爆笑することしかできなくて、笑いながらまたバカみたいに泣いてご飯が食べられなくなって。
ついでにそこからトラウマになって、別れ話をしたポムの樹に行けなくなったり約束したスカイツリーに登ることなく何年も過ごして。

全部向こうの人生にとっては、あったかもなあくらいの思い出なんだろうけど、21歳の女子大生にとっては一生一代の本気の恋でした。

相手のためにつく嘘はやさしい嘘だっていうけど、彼のついた嘘はどっちだったんだろうな。

心の底からおめでとうって今は言えないし、というか一生かかっても絶対そんなこと思うわけなんかないんだけど。
でも、幸せに過ごしてくれればいいなと少しだけ心の底から思う気持ちもまだ残ってる。

大丈夫、これは自分へのやさしい嘘じゃない。
過去の亡霊に引きずられて、今の自分を大切にできなきゃ、このまま冷凍庫の奥で凍えて死んじゃうよ、わたし。


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