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<序章>「良い」慣習が、いかにリーダー育成の努力とエネルギーを消耗させるか

将来有望なリーダーたちのプロフィールを経営陣とともに読みながら、CEOは顔をしかめて頭を抱えた。野心的な成長目標と、せっかちな株主たち、そしてはやる理事会の重圧を感じた彼らは、新たな優先事項に着手し、早急な変革の必要性に迫られた。じきに、経験の浅いリーダーにも、多岐にわたる難しい業務を強制せざるを得なくなるだろう。

新しいリーダーには支援が必要だと考え、経営陣は人材開発を加速化させるプログラムを積極的に取り入れた。そして現在その成果を得て、主要業務にリーダーを配置し始めるときだった。

だが、うまくいっていない。

長時間かけてプロフィールを熟読し、必要条件について議論し、進捗状況を評価し、そして厳しい現実に直面した。CEOはチームのメンバーを見回して、きっぱりと言った。「われわれには、この仕事ができるリーダーがいない。まだ準備ができていないのだ」

このCEOは誰のことだろうか? そしてどこの会社のことだろうか? ビジネス上の課題とは? 数え切れないほどの経営幹部が今、このような課題に直面している。彼らは、ビネジスのニーズが織組内のリーダーの能力を超えていること、そしてリーダー育成への投資がうまく機能していなかったことを認め、懸念を抱いている。多くのCEOが厳しい立場に立たされながら、この苦境にどう対応すればよいかわからず途方に暮れている。準備ができていないのだ。


1.世の中の動きは速く、人の成長は遅い

本コラムは、人をリードする方法を論じるのではなく、優れたリーダーの育成方法を論じるものである。リーダーの不足によって組織の未来が危ぶまれており、その問題に積極的に対処しなければならないと考えている人には、本コラムは有益だろう。自社のリーダーの成長速度に満足している人は、ここで得るものはない。本コラムが役立つのは、今思い切った措置を講じて、新たな標準である混沌とした競争社会をリードしていく準備を――より速く、より継続的に、そして十分に――自社のリーダーにさせるべきだと考える人だけである。

準備はできている。

まずは、「準備ができている」 という状態が何を意味するのかを考えてみよう。あなたの組織のリーダーは、準備を整えつつあるだろうか? あるいは、ついていくのに精一杯だろうか? 新たな戦略を考えたとき、それを引き受ける準備のできているリーダーがいるだろうか? それとも、リーダーのギャップがリスクを引き起こすだろうか? 組織内のエネルギーや持続力は増大しているだろうか? 減少しているだろうか? 難しい質問をしよう。「2年で準備ができる」、「能力開発によって準備ができる」と言う場合、それは本当だろうか? 時間や努力で、必要な準備がすぐにできるものだろうか?

近年、世界中の組織がリーダーの育成にこれまでにないほどの投資をしているにもかかわらず、リーダーの準備度は危険な傾向を示している。それは、統計データを列挙する必要もないほど明らかだ。この20年間リーダーシップ能力開発は常にCEOの最優先課題として挙げられてきた結果、全世界の投資は倍以上に増え、次世代リーダーの育成のために何十億ドルかが注ぎ込まれてきた。だがその間、リーダーの準備度は大幅に低下してきたのは明白だ。あらゆる部門において、リーダーシップに対する信頼の低下と深刻な人材不足がいくつもの調査で明らかになった。どんなに楽観的に見ても典型的な組織では、欠員補充が必要にもかかわらず、多くの場合においてリーダー不在の状態になるという。また、一部の組織では、さらにひどい事態になっている。リーダーが不足するせいで経営幹部が日常的に戦略的優先事項を遅らせたり、取りやめたりすることになり、優れたリーダーがいる組織と比べ戦略に失敗する可能性がはるかに高くなるのだ。加速する世の中の変化に、リーダーが対応できるよう支援する取り組み自体が、大きく後れを取っていく。

10年以上前、われわれはリーダーの準備度に関する問題に取り組む組織の一助となるよう『「AP」方式による次世代リーダーの発掘と集中的育成』。を出版し、その中で、どのようにハイポテンシャル・リーダーを特定し、彼らが短期間に、より重要なポジションに就く準備が整うよう育成を加速させるための実践的な基盤を提示した。そして、そういったリーダーのグループを「アクセラレーション・プール」と名付けた。それ以来、世界中で 1,000を越える組織――さまざまな業種の企業、医療サービス、政府機関、官公庁、大学、教会、慈善団体など――がアクセラレーション・プールの概念を取り入れてきた。実際にそういった組織は、他と比べてリーダー育成のぺースが速く、準備のできているリーダーが多く存在し、良い実繊をあげていることが独自の調査によって明らかになっている。この成功は喜ばしいものだが、世界的に変化のスピードが速く、ますます複雑さが増している昨今、多くの組織は、ただ単にリーダーを育てるだけでなく、より多くのリーダーをより速く育てなければならない状況になっている。

しかし、「より速く」というのは可能なのだろうか? 今よりさらに速く学ぶことをリーダーに求めることなどできるのだろうか。リーダー不足がいかに差し迫った問題であろうとも、新しいリーダーの超多忙な生活と負荷のかかりすぎた頭に、さらに多くを詰め込んだところで、その問題が解決するわけではない。準備ができている状態にする、つまり即戦力をつけるには、単により速く走ろうとするだけでは不十分なのだ。

2.人材開発の加速化にエネルギーを吹き込む

混乱した世界で人材開発の加速を実現させるためには、まず一度足を止めて考え直さなければならない。だが、あなたが組織のリーダーシップの問題を根本的に変えようとしているCEOや経営幹部なら、その探求には骨が折れるだろう。より速くリーダーを育成するためのガイダンスとは、果たしてどのようなものなのだろうか。その現状について、以下の2つの事実を理解いただきたい。

①世界的に高まっているリーダーの需要は、余剰なアイデアの急増を招き、その結果、既存の原理や成功事例の焼き直し、一見革命的に思われるものの蔓延などが発生した。CEOと人事部門のリーダーは、あらゆるものを読んで、自分たちの取り組みを促進する優れた知恵や考察を探さなければならない。

②リーダー育成のための確立されたガイドラインは、はるかに複雑となった今の世界では、かつてほどの影響力を持たない。それにより、①で述べたように、同じアイデアが何度も再利用される一方で、リーダーの需要が組織のリーダー育成能力をさらに上回るといった悪循環ができあがる。

心配することはない。われわれは特効薬のような解決法を約束するわけでもなければ、われわれが提供する独自の完璧なやり方を採用しなければ失敗を免れられないなどと言うわけでもない。リーダーの成長を加速させるのに必要なものは、すでにあなたの組織内にある。人、資源、予算、そしてあなたのリーダーシップを発揮させる時間だ。しかし、もしあなたが「自社の後継者管理システムが意図した通りに機能していない」と感じる74%の最高経営幹部の一人なら、または「新たに発生する課題に取り組むのに必要なリーダーが足りない」と感じる85%の一人なら、あなたは行き詰まっているのだろう。ジャンプスタートを切るか、少なくとも新たな方向性を探ることが必要となる。

ただし、自分自身のやり方を見極めるということは、何も、今よりももっと多くのアイデアが必要になる、ということを意味するわけではない。すでに学んだこと、書かれたこと、行われていることによって、われわれはリーダー育成に必要なことを見いだしていないのだろうか? 答えはイエスでもあるしノーでもある。確かに、われわれはリーダーの成長速度に影響するツールやテクノロジー、内容、方法について多くのことを知っており、すでに大きな進歩があった。

だが、ツールやテクノロジーではリーダーは育たない。リーダーを育てるのはリーダーである。最新で最大の発明でさえも、リーダーのギャップを埋めることは期待できない。人事部門がツールとテクノロジーの開発に計り知れないリソースをつぎ込んできた一方で、リーダーを育成する人間の力は衰えた。われわれは物に投資すればするほど、人に投資するのが不得手になっていくようだ。

われわれは世界中で仕事をする中で、組織の経営幹部に何度もこういう質問を投げかけた。「短期間で急速に学習するときどんな気持ちになりますか?」と。彼らの答えはみな同じだ。恐れと興奮、不安と期待、恐怖とスリル、リスクと可能性――どれも、学習の速度を高めるためのエネルギーを生み出す。

だが、あなたも気づいているとおり、リーダーの能力開発プログラムの大半は、この独特のエネルギーを引き起こすことがうまくできていない。参加者は、プログラムを役に立つとか、興味深いとか、仕事に直結するとか、戦略的に重要だなどと評するだろう。だがこういった評価は、リーダーが高速学習に対して感じている恐れや興奮、恐怖やスリルとは、まったく別のものだ。

恐れと興奮はリスクとともに生じ、そのエネルギーは、適切なタイミングで適切なリスクを取れば成長へとつながる。つまり組織の人材のスキルや能力を開発する際は、機敏に動いて本当に大事なことに早く到達することが大切なのだ。成長の加速は、学習活動を速く行うことで達成できるわけではない。不安や興奮といった形でリーダーのエネルギーに火をつけるリスクを、あなた自身が負うことで達成できるのだ。われわれの経験上、目標に達しないリーダーシップ開発の加速化の試みには共通点がある。ツールの仕組みやその利用法の研究には積極的だが、エネルギーの研究には消極的な傾向にある点である。

加速化の試みがうまくいかなければ、プロセスやツール、テクノロジー、優秀なコンサルタントを増やしても問題は解決しない。リーダーの成長の加速を阻む根本的な障壁はエネルギーの不足であり、そのエネルギーは大胆さ――あなたの大胆さ――から生まれるのだ

勘違いしないでほしい。もちろんツールやプロセスも努力を最大限に活かすために必要である。だが、より速くより多くのリーダーに即戦力をつけたいのなら、人材開発の加速化のための道具箱を、もっと巧妙に、さらなるリスクを冒すことを厭わずに使わなければならない。経営幹部は、リーダーが高速学習で経験する恐れ、興奮、心配などを作り出し、それを利用しなければならない。個人として、そして組織として、不快な思いをすることを厭わず、不確かな結果も受け入れられるようでなければならない。そうなってはじめて、リーダーシップのギャップが埋まり始めるのだ。

3.速度を落とす原因となるもの

このコラムを開いてここまで読んだということは、あなたはこれまでも本や記事を読んで、自社のリーダーシップ人材開発プログラムを支援したり創り出したりしたのだろう。しかし、その投資がまだ成果を生んでいないなら、あなたの努力は次のどれかに該当する可能性がある。

4.エネルギーを生み出すのでなく、枯渇させるやり方を取っている

最速で最強の学習体験は、恐怖と疑念を誇りと知恵に変える。以下の例について考えてみよう。

・若手の未経験リーダーが、自分よりも年長で経験のある人々を率いる役割に就く。
・業務執行貴任者が、なんの知識もないIT部門の管理を急に任される。
・新任のCEOがいきなり、戦略と組織文化の大きな方向転換を必要とするような市場危機に直面する。

こういった最初に直面する大きな課題でショックを受け、リーダーはすぐに姿勢を正す。このショックは不安をもたらすが、努力と訓練、支援によって、その不安は行動に変わっていく。最終的に課題を乗り越えた暁には、リーダーはそれまでを振り返ることによって自信と洞察力を得て、それを次の課題に活かすことができるようになる。こういった難しい業務をこなすことで、リーダーはさらに大きな役割を担う準備ができるのだ。

課題は、個々の取り組みを超えて一般化することでこのコンセプトの見える化を行い、リーダー全体の育成を何度でも実施できる仕組みを創りだすことだ。多くの組織は、規模が大きくなると仕組み化を図るが、エネルギーのない仕組みは加速を止めてしまう。規模を問わずグループに学習への取り組みをさせたあと、そこにガイドラインやミーティング、文書化、義務的なイベント、進捗状況のチェックといった負担が加わるようになるのは珍しいことではない。参加者――たいていは、組織内で最も多忙な人々――は、自分の本来の仕事とはほとんど関係のないプロセスにかける時間を作るために、一生懸命働く。じきに、成長のためのエネルギーを生むために作られたものが、重要でないように見えてしまい(実際そうなのだろう)、プロセスへの無関心やいらだちのもとになってしまう。

プロセスそのものが失敗なのではなく、プロセスを進めるためのエネルギーがないことが問題である。エネルギーがなければ、どんなプロセスを導入しようと続かない。では、どうすればエネルギーを高められるのだろうか? 人材開発の加速化の取り組み体制を見直し、危険を冒せばその分得るものが多くなるよう、そして参加者全員が自分の役割と成功に与える影響を理解できるよう、ルールを書き換えればよいのだ。あなたは既存のアプローチをもっと積極的に活用し、より多くの人に、そのキャリアの早い段階で、より大きな能力開発の目標を設定しなければならない。

5.「なぜ」の問いかけがない

人材開発の加速化を目指す理由は、よく次のようにまとめられる。「われわれにはとにかくリーダーが不足している。もっと優秀なリーダーを増やさなければ、じきに窮地に陥ることになるだろう。外部採用という選択肢はないので、残るのは、内部の人間が成長するか、失敗するかの2つに1つしかない」

そう考えると、経営陣は姿勢を正し、会議の中でこう自問する。「どうやってこの問題を解決するか?」。この段階で大半の経営幹部の頭にあるのは、品質、サービス、コスト面の問題に直面したときのような対処――原因を分析し、解決策を考え、実行する――である。

だが、人材開発の加速化は別だ。品質、サービス、コストの問題は、規律を持って実行するような新たなプロセスで解決できる。だがリーダー不足は、成長へのエネルギー――恐れと興奮――でしか埋めることができない。そのエネルギーが、人材開発の加速化システムに必要なプロセスと規律の推進力となるのだ。つまり、人材に関する問題を解決しようと思ったら、エネルギーの問題を解決しなければならないのだ。

人材開発のリスクを負うことで、エネルギーは増大する。しかし、より大きなリスクを負うには、より多くの「なぜ?」の問いかけが必要となる。なぜ育成するのか? なぜ加速するのか? 経営幹部にとって、「なぜ?」という問いかけは人材開発の加速化のための論拠を生みだす。強力な論拠がないと、能力開発のためにリスク(大きなリスクならなおさら)を負うよう最高経営幹部を説得するのは難しい。実際、人材開発の加速化はどんな組織にも適しているわけではない(例えば、立ち上げを急いでいる組織は人材獲得に重きを置くだろうし、人材の供給体制が十分に整っている組織では、それを維持することのほうがより重要であろう)。

リーダー個人にとって、「なぜ」は加速化のための動機づけである。これがないと、能力を思い切って開発するようリーダー個人を説得するのは難しい。リーダーには、能力開発の加速化によって高収入で強い影響力を持つ輝かしい未来がもたらされるだろう。プロセスがうまく機能すれば、組織の中でもっと多くを学び、多くを稼ぎ、多くの意思決定を行うことができるのだ。たいていのリーダーは、それを聞くと強い興味を示す。だがそれだけでは十分とは言えない。最も強力な学習体験――リーダーシップ能力を本当の意味で変える体験――は、必要性があればこそなのだ。高速学習を始めた理由を尋ねると、リーダーは決まってこんな風に答える。「組織に必要とされていたから。これをできるのは私しかいなかった」「自分が大きな変化をもたらせると思ったから」「上司が私ならできると考え、私もそれに同意した」。

「これはあなたの得になる」「あなたが必要だ」では、加速化のためのエネルギーの生まれ方がまったく違う。経営陣と学習者の双方にとって最も強力な「なぜ」を作り出すには、組織と個人、どちらかのことだけを考えるのでは不十分だ。そのどちらにもアピールするために「われわれ(組織)はあなた(個人)に思い切ってやってみてほしい」と言うのだ。経営陣をも個人をも引きつけなければならない。なぜ組織はリーダーの成長を必要としているのか、リーダー一人ひとりに何を求めているのか、なぜ、より速く飛躍的に成長するために大きなリスクを負う必要があるのか…を伝えるのだ。

6.リーダーとともに何かをすることより、リーダーに対して何かをすることに焦点を当てている

組織のトップは、経営陣に自社の将来について話をする機会が多いだろう。そして、主要なリーダーの能力開発計画を見直したり、メンターの役割を果たしたりすることもあるかもしれない。こうした行動はすべて有用ではあるが、彼らが本当に必要としていることではない。人材開発を加速化する中で大きなエネルギーを生み出すのは、こういった行動ではないのだ。

やる気に満ちあふれたリーダーに、あなたのエネルギーに火をつけるのは何かと尋ねてみれば、「組織が直面している難問を経営幹部とともに解決することだ」という答えが返ってくるだろう。人材開発の加速化プログラムに参加したあるリーダーはこう言っている。「リーダーシップ・トレーニングは悪くないが、私が本当にしたいのは行動することです」と。彼女はもっと稼ぎたいと言っているわけではない。組織の中心にいるリーダーともっと密接に関わって働きたいのだ。

だからといって、初級幹部に大きな責任を負わせて組織のコアビジネスを危険にさらせというわけではない。われわれが言いたいのは、経営陣は、リーダーとの時間の過ごし方を見直して、真に変化をもたらす成長体験を彼らに与えるべきだということだ。リーダー一人ひとりに課題を与え、経営幹部からのヒントやアドバイスをもとに一人で解決させるのではなく、経営幹部が現在取り組んでいる課題を選び、その解決を手伝わせる。経営幹部とリーダーは、一緒になって課題に取り組み、同時に学び、成長するべきなのだ。

ゲームを学ぶにはゲームをしなければならない。さらに早くリーダーを増やしたければ、彼らをゲームに参加させるのだ。それも、早すぎると感じるぐらい早く。彼らとともにゲームをし、ともに学び、成長すれば、学びも成長もより早くなる。

7.自身の成長を自分だけのものにしている

成長の進捗を他者に示せば、人材開発の取り組みは加速する。これは、組織の全員があなたの成長の進捗状況を確認しなければならないということではない。何人かがよく見ていかなければならないということだ。成長は、CEOを先頭に、リーダーからチームのメンバーへと連鎖していく効果がある。単純な話だ。自分の組織に学ばせたければ、自分が学ばなければならない。もっと速く人の成長が見たいなら、自分が成長しなければならない。だが、その取り組みは個人的なものであってはいけない。経営陣は日々学び、成長していくが、組織内の他の人々にその取り組みが周知されていなければ、大きなチャンスが無駄になっていることになる

成長のエネルギーを伝わりやすくするために、経営陣は手本とならなければならない。多くの組織は「全員がそれぞれの成長プランをもつこと」といった指示を出す。もちろん、こういった方針はそれなりに成果をあげるだろう。しかし、これを人材開発の加速化と取り違えてはいけない。成長の手本となるのは、新たな取り組みを試し、それがうまく繰り返されるようフィードバックを精力的に集めることである。成長は一度限りのことではなく、永続的なものだ。

必ずしも大きな変化である必要はないし、必要以上に個人のことを開示しなくてもよい。ただ、能力開発は十分に可視化されなければならない。人材開発の加速化が組織内に広く周知されていなければ、大きな効果は得られない。

8.失敗を必要以上に恐れている

失敗は痛みを伴うものだ。危機に瀕すれば疲労困戀する。間違いは高くつく。その一方で、不快感と喪失感の中で、深い洞察と力、革新的なアイデアが生まれることもあるだろう。もちろん必ず生まれるという保証はない。実験をしたり、意図的にリスクを負ったり、不確かなものを受容しないと、良い結果を得られる可能性は低くなる。もし有望なリーダーが苦労し始めたら、あなたの組織で何が起こるだろう? リーダーシップが機能しなかったとき、経営陣はそこから何を学ぼうとするだろうか? それとも責任の所在を明らかにしようとするだろうか? 能力開発の意を込めた任務は、リーダーの合否判定のテストだろうか? それともリーダーとしての行動をさらに進化させるための実験と実践だろうか?

失敗したい人などはいないし、一人で失敗するのは考えたくもないことだ。しかし難しい仕事を任されたり、難しいリーダーシップ・プログラムへの参加を求められたリーダーは、そのようなリスクを負うことが多い。リーダー不足が深刻な場合は、成長のためにいちかばちかの手段をとる誘惑に駆られる。リーダーを課題という海に投げ込み、何とか生き延びてもらい、その経験からより優れたリーダーとなって水面に現れるのを期待するのだ。しかし、それがうまくいくことはあまりない。自己裁量でリスクの高い仕事から何かを学ぶよう任されると、リーダーの学習は行き当たりばったりになってしまう。誤ったことを学び、その結果、前途有望だったキャリアが台無しになる。失敗が、成長の過程に、とりわけ人材開発の加速化に役立つのは確かだが、失敗が組織にとってプラスに働くのは、リーダーとリスクを共有する場合のみである。

失敗に対する経営陣の反応は、人材開発の加速化の取り組みに勢いをつけるか、勢いを奪うかのどちらかだ。リスクが多ければ失敗も多くなることを認めなければならない。高速に成長しているリーダーは、その勇気を試す状況に意図的に直面させられる。だが常に成功することが期待されていると、リスクを取ることも、ひいては成長も抑制されてしまう。速く学んで成長するには、暖昧さや戸惑い、失敗による喪失感を経験したうえで、別の――願わくばより良い――方法を試すことである。経験の最中や前後に適切な支援を受ければ、リーダーは大きな業務に取り組むために必要な洞察力と能力を身につけることができるだろう。

9.人材開発の加速化の必須要件と、その最大限の活用法

あなたの組織では、学習を支援する良いプロセスがすでに存在しているかもしれない。しかし実施するにはかなりの尽力が必要となるため、それが原因で、必要な成長が実現できていない可能性もある。人材開発の加速化のスピードと効率を上げるには「Good」なだけでは不十分な場合が多い。導入の難しいプロセスが果たして本当に有効なのか疑問に思うかもしれないが、どうか安心してほしい。すべてにおいて「Great!」な状態である必要はないし、システム全部を捨てて一気に作り直す必要もない。本コラムでは、「Good」な取り組みと「Great!」な取り組みを対比させ、人材開発の加速化の成果を大きく改善させた例を紹介する。どのケースでも、すべてを完璧に成し遂げようとはしていない。どの方向を目指すかを決めて、自社のビジネス状況に最も役立つ部分に重点を置いている。われわれはこれを人材開発の加速化の必須要件と呼ぶ。そのすべてに秀でている必要はないが、システムが崩壊しない程度には知っておくべきだ。

●人材開発の加速化の必須要件

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リーダーシップ開発の加速化システムは、イグニッション、トランスミッション、サスペンション、排気といったさまざまなシステムが同時に動くことによって走る車に似ている。それぞれが補完し合わなければならないが、多くの組織は、大事な部品が足りなくて組立ラインから外された車のようなものだ。ひとつ一つの部品の質は高くても、そのような車はうまく動かない。例えば、タレントレビューのプロセスを改善することだけに重きを置いている組織は、リーダーの需要と供給に関する理解を高めることには成功しても、人材開発の加速化は実現できないだろう。実現するには、加速化に関わる残りのシステムも導入しなければならない。

一方で、慎重すぎるほど慎重に運転される高性能車のような組織も存在する。すべての部品が正しく配置されているのに、誰もアクセルを踏まないせいで、せっかくのシステムが活かされない。評価は表面的で、ビジネスに関連するデータはあまり提供されず、フィードバックには効果がなく、能力開発計画は創造性やリスクに欠ける。最終的には、どの要素も、必要とされるエネルギーや成長を引き起こすことができずに終わってしまう。

問題点が部品の不足にしろ、慎重すぎる運転方法にしろ、解決法は車を捨てることではない。最大限に機能するよう組立を完成させることだ。そして、組織ごとの必要性に合わせて車を調整し、アクセルを踏む。あなたの仕事は、車を速く走らせる方法を学ぶことである。

人材開発の加速化の必須要件には、新しいコンセプトのものはひとつもない。学習の内容はすべて、われわれが協力してきた世界中の1,000を超える組織――多くは成功した組織だが、そうでないものもある――が教えてくれたものである。あなたが人材開発の加速化のべテランなら、必須要件のそのほとんどが、すでに取り入れた経験のあるものだろう。

6つの要件の内容はそれぞれ、成功のための当たり前のステップのように思われるかもしれないが、人材開発の加速化が成功している組織では、6つのそれぞれに関して、起きていることはまったく違っている。システムの要素を取り入れただけの組織と、常に人材開発の加速化を目指して成果をあげている組織との間には大きな違いがあるのだ。

本コラムは6つのセクションに分かれて、「Good」なプログラムと、リーダーの準備度を飛躍的に改善する「Great!」な取り組みの違いを解説する。重要なのは、6つの分野すべてにおいて卓越していなければ大きな成果をあげることができないわけではないことだ。われわれの顧客の中でも特に大きな成功を収めた組織の多くは、必須要件から1つないし2つを慎重に選び、その分野で卓越することに力を入れた(他を完全に放っておいたわけではないが)。それらに関しては、「Good」で満足せずに「Great!」を目指したのだ。

10.ラジオで聴く人材育成

11.おすすめ人材アセスメントソリューション

①コンサルティングソリューション

②オンラインシミュレーションアセスメント&アセスメントシステム

③オンライントレーニング&ディベロップメント

12.DDIとは

DDIは、世界最大手の革新的なリーダーシップ・コンサルティング企業です。1970年の設立以来、この分野の先駆者として、リーダーのアセスメントや能力開発を専門としてきました。顧客の多くは、『フォーチュン500』に名を連ねる世界有数の多国籍企業や、『働きがいのある会社ベスト100』に選ばれている世界の優良企業です。

DDIでは、組織全体におよぶリーダーの採用、昇進昇格、能力開発手法に変革をもたらす支援をすることで、すべての階層において事業戦略を理解し、実行し、困難な課題に対処できるリーダーの輩出に貢献しています。

DDIのサービスは、現地事務所や提携先を通じて、多言語で93カ国に提供されています。また、同社の研究開発投資は業界平均の2倍であり、長年にわたる実績と科学的根拠に基づいた最新の手法を駆使して、組織の課題を解決しています。

◆DDI社の4つの専門分野

DDI社は、4つの専門分野を中心に、長年の実績と科学的根拠に裏付けられたソリューションと、より深い洞察を提供し、優れた成果を生み出しています。

13.会社概要

会社名:株式会社マネジメントサービスセンター
創業:1966(昭和41)年9月
資本金:1億円 (令和 2年12月31日)
事業内容:人材開発コンサルティング・人材アセスメント

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