見出し画像

原 尞『それまでの明日』

現代では奇跡に近いくらい寡作が過ぎることから“伝説の作家”と呼ばれる原 尞の14年振りに出た2018年の作品『それまでの明日』が2年を経て文庫化される。
探偵 沢崎シリーズの第二期二作目にあたる作品で、早川書房への原稿持ち込みから奇跡的にデビューに至った1988年『そして夜は甦る』で始まり、続けて第102回直木賞受賞作『私が殺した少女』、そしてこの『それまでの明日』を最新とした現在まで長編五冊、短編集一冊と三十年で六冊という平均しても五年に一冊ペースの執筆はある意味で驚異的であり、次作は早く出せそうと言いながら十数年とか平気で費やす作家なので、読者もなかなか気が抜けない。
だが、和製チャンドラーと評されるハードボイルド作品は、今なお唯一無二で読者を魅了させ続けるところが凄いのだ。
レイモンド・チャンドラーの影響を受けた作家は、原 尞の他には『猟犬探偵』『セントメリーのリボン』の稲見一良が挙げられるものの、原 尞が最もチャンドラーに近い作風だろう。
探偵 沢崎シリーズが第二期に入り、作者の年齢相応な感傷に主人公沢崎が近付いている節から第一期と比べるとその丸みが物足りないと感じる方も出るかもしれず、ここは第一期できっぱり物語を締め、新たな主人公のシリーズで走り出しても良かったような気もするのだが、優れたハードボイルド作品とは友達のように主人公に会いに行く(再読する)作品であれば、一人の主人公への拘りも理解は出来るし、今や原 尞以上のハードボイルド作家は日本に存在していないので。



原 尞『それまでの明日』 (ハヤカワ文庫JA)
https://www.amazon.co.jp/dp/4150314462/ref=cm_sw_r_other_apa_i_0CHtFbB9MBWX4

『それまでの明日』刊行記念インタビュー
https://www.hayakawabooks.com/n/n82794e0ed426

稲見一良『セント・メリーのリボン』 新装版 (光文社文庫)
https://www.amazon.co.jp/dp/4334776728/ref=cm_sw_r_other_apa_i_M1OtFb2QQV9R3

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?