優しい世界でありますように

当事者にならないとわからないことが、たくさんある。海外に出ないと自分はアジア人なんだと実感しないし、怪我をして初めて車椅子の目線を知った。内閣総理大臣がどれほどのプレッシャーなのかは一生わからないだろう。声を上げるのは大切だけど、軽率に否定したり批難するのは恐ろしいことだ。

来年の春、友人に子どもが生まれるらしい。その電話はとってもハッピーで自分のことみたいに嬉しかった。

「でもね、こんな時代に、ごめんねって気持ちが、少しだけあるの」
なにも言えなかった。なにを言えばいいのかわからなかった。ちっとも似ていない大泉洋のモノマネで「そんなこたぁ言っちゃいけないよアナタ」と返すのが精一杯だった。

日本の社会福祉は充実している。それでも、調べるとどうしても違和感を覚える。地域の保育園について。出産育児一時金の支給額の推移について。中途半端に勉強して、わかった気になって、信念のない正義が顔を出す。振りかざしそうになる。

世界はいい方向に進んでいると毎日信じている。それでも、やっぱり、なんだかなぁ。生まれてくるその子を抱っこしたり手をつないだり、できるんだろうか。してもいいんだろうか。生まれてくるその子に、豊かで、彩りのある、優しい世界を見せられるんだろうか。

きっと頭のいい人達が真剣に考えてやっている。だけどリモートやVRや5Gはどれだけのことを、その子に体験させてくれるんだろう。初めて友だちと自転車で遠出をしたワクワク。部活帰りに食べるコロッケの温かさ。親に言えないエロい秘密。カラオケで朝を待つ気怠さ。酔っ払って始発に乗ったら知らない街にいて、その土地の朝飯がやたら美味くて笑う。そんな大事じゃないけど大事な体験を、テクノロジーは伝えてくれるのかな。15秒の動画にまとめて伝えたりしないでよ。

ハイボールを飲みながら散歩をしていると、イヤホンからMr.Childrenが流れてきた。

「なにが起こっても変じゃない そんな時代さ 覚悟はできてる」

1995年に歌った桜井さんはとんでもないな。モヤモヤした気持ちを夏が終わるせいにして、2リットル流し込んだ。覚悟するしかないんだ。ちゃんと優しい世界を見せられる、おもしろ大人になるよ俺は。


Mr.Children /【es】~ Theme of es ~





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