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瀬尾まいこ『天国はまだ遠く』を読んで


この小説を読んで、自分の居場所とはどこだろうと考えた。
ここでこんな事を書くと怒られそうだが、仕事を辞めたいと思う時がある。業務、人間関係、全てが嫌になることがある。全てを投げ出して楽になりたい、最近の若者にはありがちな思考だと思う。


主人公は都会生まれ都会育ちのシティガールだ。何故そんな彼女が日本海にほど近い町の小さな集落に行くことになったかというと、自分の人生を終わらせる気だからだ。会社での仕事や人間関係、恋人との関係、生きること全てが嫌になり、全てを投げ出して死ぬつもりで集落へ来た。そしていざ実行に移したのだが、失敗してしまい、むしろ自殺する気なんてさらさらなくなってしまった。

作者は、京都府京丹後市の旧久美浜町の辺りで中学校教諭をしていたらしい。その経験を活かし、この小説では日本海側の小さな集落での様子が描かれている。
兵庫県北部の出身としては、具体的なイメージを浮かばせながら読むことができた。
日本海側では、「弁当忘れても傘忘れるな」と言われるくらい天気が変わりやすい。主人公は何度か行った日本海の海と空を、

私は日本海がもたらす暗い海と暗い空に度肝を抜かれた。私が行く時、いつだって日本海側の気候は不愉快そうだった。

と表現している。
実行する場所は、観光地など陽気な場所ではダメらしい。地元の者としては日本海側もそんなに陰気ではないと思うが、確かに神戸など瀬戸内の気候と比べるとどんよりした雰囲気をしている。


そして主人公は、泊まり先の民宿の田村さんとのふれあいや田舎暮らしを通して、自分の生きる場所について考えるようになる。

田村さんは、主人公に優しい。態度はぶっきらぼうだけど、元恋人に主人公が送った手紙に民宿のマッチを入れて訪ねてきてくれるように手がかりを残したりする。結構お節介だと思う。でも主人公に干渉せず、優しく見守ってくれる。彼がここにいればいいと行ったなら、主人公はずっとこの地にいただろう。でも言わないのが、田村さんの優しさだと思う。言ってしまえばこの地に縛り付けてしまうことになるから。

田村さんも昔は都会で働いていたけれども、両親が突然亡くなった為に実家の民宿を継ぐことにした。都会でやりたいこともまだまだあったらしい。それでも、先祖代々守ってきた土地を絶やすわけにはいかないと戻ってきたのだ。古い考えだけど、田舎ではまだこういう考えが捨てられない。

私の父もそうだから、田村さんが語る部分では気持ちがわかるような気がして切なくなった。
父は電気屋をしているが、私と姉に継いでほしいとは言わない。二人とも女の子だったからかもしれないけど、父もやりたいことがあったのに地元に帰ってきたタイプなので、同じ思いをさせたくないとの考えもあったのかもしれない。父にも聞きづらいので聞いたことはない。

でももし、父に帰ってこいと言われたら。帰らざるをえない状況になったら。私はどうするだろう。

主人公は、結局この地に生きていく場所を見つけることはなかった。それは彼女の帰る場所がこの地ではなく都会にあったから。
私の場合は、帰る場所がなくもない。地元には友達もいるし、親はいるし、仕事だって探せばあるだろう。でも、はい帰ります!というほど帰りたいわけでもない。
こう思うくらいだから、私ももう半分「都会の人」なのかもしれない。今の店舗にも一番手の仕事にも生活にも慣れた。この生活が今の私の全てだ。

今、地元に戻って再就職したとしても、慣れるには時間がかかるだろう。それをどう受け止めるかは私次第だけど、その決断はまだできない。もう少しこっちでがんばろうと思う。

***

実はこれ、私の読書感想文ではなく、妹にゴーストライターを依頼されて、妹になりきって書いたものだ。
自分で書けよと言ったのだけど、賞に選ばれると報酬がもらえると言われ意気揚々と書いてしまった。ゲンキンな姉…笑

そしてこの度賞にひっかかり少しばかり報酬をいただいたのでここに載せてみた!

改めて読み返すとなんて暗い文章なのかと自分で笑えてくる。本のタイトルに似合わず途中からは明るい本なので暗くなる必要はないんだけど、書いた頃は満身創痍もいいところだったので影響しているんだろうなあ。


妹の職場の方がここを見ていないことを祈ります…
(といいながら投稿ネタに使ってしまいます)

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