青色のおまじない【オリジナルSS】

青色のおまじない

「ねぇ、リボンこれにしようよ!青色ってちょっとセンス良くない?」

「おそろいにするの?せっかく交換するのに?」

「このリボンがいい!ね?だめ?」

このときの私は半ば強引だったかも知れません。それでも、どうしても彼女に青色のリボンを選ばせたかったのです。

彼女の名前は佳乃(よしの)と言います。高校に入学し、私の一つ前の席に座っていた女の子です。私の目に佳乃は、外見も中身も何もかもが大人でした。ホームルームの自己紹介の時間、緊張する素振りもなくスッと立つ姿、優しい話し方が印象的で、私は仲良くなりたいと強く思いました。休み時間にすぐに声をかけ、3学期半ばの今は一緒に過ごすことが当たり前になっています。季節はもうすぐバレンタイン、私は佳乃に手作りのチョコレートをあげたいと考えていました。しかし私はお菓子作りはしたことがなく、レシピアプリを眺めながら唸っていると、佳乃からこんな提案があったのです。

「一緒に作る?簡単なの教えようか。」

「…作る!作りたい!佳乃にあげるね!」

「私でいいの?じゃあ私は紗彩(さや)にあげるよ。」

こうしてバレンタインデーにチョコレートの交換の約束をしました。私は浮かれに浮かれ、いっそ気持ちも伝えてしまおうか、そんな計画すら考えてしまうほどでした。そんなときSNSで見かけたおまじないが、「バレンタインデーに青色のリボンでラッピングしたチョコレートをあげると恋愛成就」というものだったのです。短絡的な私は、これをやるしかない、そう心に決めました。

そして、一緒に材料とラッピング用品を買いに来た2/14当日、私は気持ちが前のめりになりすぎて、必死になってしまっていました。「どうせ佳乃からも貰えるなら、青色のリボンをかけてほしい。」そんな邪な心が大きく膨らんでいました。錯覚でもいいから、佳乃に想われていたかったのです。一緒にチョコレートを作っている時間も、頭の中はおまじないのこと、そしてなんて伝えようかでいっぱいでした。

「紗彩、それ分量違う。」

「あ、ごめんごめん!危なかった。」

「なんか今日変じゃない?」

「変じゃないよ!いつも通り!」

そして出来上がったチョコレートをラッピングしていきました。もちろん、青色のリボンをかけて。佳乃のが作ったものは佳乃のそのままが現れるような、きちっと綺麗なチョコレートにラッピング。私のはといえば、不器用で綺麗とは言えない、不格好なものでした。私は急に恥ずかしくなってしまいました。佳乃みたいな人に、私なんて釣り合わない。好きだなんて思うこと自体間違いだったんじゃないか、そんな風に思って悲しくなりました。

「なんで落ち込んでるの?はい、バレンタイン。」

うつむく私に佳乃は作ったばかりのチョコレートをくれました。佳乃が私のために作ってくれたチョコレート。私のためにラッピングしてくれたバレンタインのプレゼント。それだけで、なんだか涙が出そうでした。

「紗彩のは?私にくれるんでしょ?」

「…でも、上手く出来なかったし…。」

「交換しようって約束したでしょ?」

「…もらってくれるの?」

「当たり前でしょ。それに、せっかく青色のリボン、かけてくれたんだから。恋愛成就のおまじない。」

「佳乃、知ってたの?」

佳乃は頷き、微笑んで

「はい、私からの気持ち。紗彩のも、ちょうだい?」

そう言って私に手を差し出してくれました。

青色のリボンのおまじないは、本当でした。
今でもそのリボンは大切な宝物です。

End.


この作品は音声配信アプリRadiotalk内で、けいりんさん主催の「お題で創作」という企画に参加したものになります。今回のお題は「ブルーバレンタイン」

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