地球最後の日【オリジナルSS】

地球最後の日

うだるような暑さで目が覚めた。時計は8時を30分ほど過ぎたところをさしている。ここ数日ぐっすり眠る、ということは出来ていない。起き上がりキッチンへ向かい、冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出してパンジー柄のグラスに注ぐ。あの人がプレゼントでくれたお気に入りのレトロなグラスを見つめ、「今日はどう過ごそうか」について考えようと思ったが、やめにして喉を潤す。日に日にひどい暑さになってきているし、外は常にサイレンの音や爆竹の音、誰かの叫び声で溢れている。とにかく眠りたいのだが、それらがそうはさせてくれない日々だ。

またベッドに戻り、スマホを眺める。通信状況も悪いのかなかなかネットに繋がらない。こんな日に観たい映画もなければろくなニュースも流れていない。動画アプリには「地球最後の日」の文字が踊るばかりでなんの気も紛れない。ふと、あの人とのメッセージのやり取りを遡る。なにげない会話、繰り返される「おやすみ」と「おはよう」。たまに険悪になる空気感、そしてまた仲直りしてスタンプの送り合いして、でもそれも今日で終わりだ。私は本当ならあの人に会いたい。それ以外はなにも興味がない。スマホを下から上に指でなぞっていると、突然スマホが着信画面に切り替わった。

「もしもし、起きてたよ。全然寝れない。…うん。そっか、電話もなかなか繋がらないんだ。うん、ちょっと途切れて聞こえるかも。…え?いや、いいよ。外出たら危ないし…。ね、やっぱりね、うん。…うーん…なんにも考えられないかなぁ。…そうだよね。会えなくていいからさ、電話繋いでおいてもいい?…うん、そうしよ。あー、食べるものならなんとか。だって買い物も出れないし、配達とかもやってないし。まぁ今日までならなんとか、うん、え?最後の晩餐?そうだなぁ、今あるのが…冷凍したご飯と、玉子と、あ、トマトもある。うん、即席味噌汁もあるから豪華かもね、ふふっ。え?カップ焼きそば?まぁ悪くないかな。それ以外ないの?私の作ったハンバーグ?…会えたら良かったんだけどね。会いに来る途中で、って考えたら嫌だからさ。…うん。私も。声聞きながら終わりたい。…あれ?なんか聞こえづらいな。もしもーし?あ、うん、聞こえるけど、だいぶ遠い。…え?泣いてなんかないよ。もう涙とか出ないよ。…うん。うん、ありがとう。…うん。会いたいね。うん、わかってる。私も。好きだよ。」

End.



【後書き】

Go!Go!7188の「地球最後の日」が頭の中でずっと流れていたので書きました。

この作品は著作権フリーです。朗読、演劇などご自由にお使いください。

お読み頂きありがとうございました。

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