見出し画像

小説「芙美湖葬送」①読み切り版

病状記録用「短歌もどき」:短歌の素養なし。中学生時代に若山牧水とか石川啄木が好きだった。やはり金持ちには当時から縁が薄かったな。


骨髄を胸から抜きし後重し乗せて妻は泣くなり 14.8.14


これは平成14年8月14日の「短歌もどき」です。

妻は10月29日にはこの世を去った。妻の容体を手帳に書きまめるために中学時代に習った短歌を思い出した。これなら要領よく状況も伝えられる。いわば病人看護観察メモです。この時点で妻は死を悟った、と思う。生き物にはなんとなく死が分かる。

もどき解説をしましょう。妻は突発性血小板減少性紫斑病でした。難病です。もともと甲状腺疾患を患っていました。何が原因か分からない。たぶんさまざまなストレスでしょう。

東京大空襲前に妻は山形に疎開しました。両親は思った。ひとりでも生き残れば幸運。妻の親は亀戸の軍需工場で働いていた。徴兵検査で撥ねられたのがショックだった。戦場で戦えないが銃後なら支えられる。砲弾の薬きょう作る為に昼夜旋盤を回した。気になるのは長女だ。長男は乳飲み子だから無理だ。でも長女は4歳だ。一人でも生き残れば・・・

ここから先は

640字
この記事のみ ¥ 100

満85歳。台湾生まれ台湾育ち。さいごの軍国少年世代。戦後引き揚げの日本国籍者です。耐え難きを耐え、忍び難きを忍び頑張った。その日本も世界の底辺になりつつある。まだ墜ちるだろう。再再興のヒントは?老人の知恵と警告と提言を・・・どぞ。