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芙美湖葬送―芙美子は芙美湖に還った。

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妻の葬送記を小説化しました。死んで20年になります。私も老いました。気がついたら87歳になっていました。コロナもやって来ました。先に何が来るか分かりません。だから疎開を体験した貧… もっと読む
小説の背景は、東京大空襲、疎開、田舎での苛め、家庭内差別、脱出願望、ちゃぶ台一個・リンゴ箱式箪笥と… もっと詳しく
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小説「芙美湖葬送」順不同・読み切り版

小説「芙美湖葬送」順不同・読み切り版

4医師は時間の問題といった

間隔が空きました。欲張って、年寄りの冷や水で,同時並行で「芙美湖葬送」「死ぬ準備」「童女トン」など三本を掲載しているので、いささかへばってしまいました。だめですね。老人はコンロールが利かない。前後ダブっていることもある。でも妻が死んで今年で20年、墓標だと思って書き続けます。料金は100円になっているけど無料です。月ぎめにしたい。でも老人だからクレジットがない。デビッ

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小説「芙美湖葬送」読み切り版

小説「芙美湖葬送」読み切り版

明け方に気温が下がり始めた。

 霧が病院全体を覆い始めた。乳白色の霧が、汚れた病院の外壁を少しだけ白く塗り替えている。私が立っている最上階の病棟洗面所からは、普段は、付属看護学校棟が見えるのに、その朝は、何も見えなかった。 かすかに建物の存在を感ずるだけである。昨夜はあれほどハッキリ見えた駐車場の車も、霧の中で霞んでいる。その中の一台で、娘の琳子夫婦が仮眠を取っているだろう。昨夜九時頃、医師と長

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小説「芙美湖葬送」①読み切り版

小説「芙美湖葬送」①読み切り版

病状記録用「短歌もどき」:短歌の素養なし。中学生時代に若山牧水とか石川啄木が好きだった。やはり金持ちには当時から縁が薄かったな。

骨髄を胸から抜きし後重し乗せて妻は泣くなり 14.8.14

これは平成14年8月14日の「短歌もどき」です。

妻は10月29日にはこの世を去った。妻の容体を手帳に書きまめるために中学時代に習った短歌を思い出した。これなら要領よく状況も伝えられる。いわば病人看護観察

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小説「死ぬ準備」読み切り版

小説「死ぬ準備」読み切り版

霧社・首狩り族・「人止めの関」私が生きている場所は六畳一間である。狭いから大概のことは坐ったままできる。まるで潜水艦だ。なかなか便利だ。悔し紛れにいうのじゃなく老いて豪邸に住むのはアホである。固定資産税は高いし電気代も高くつく。その分大気は汚染される。いいことはない。

六畳一間は快適だ。歩けば二歩で壁に当たる。天井を突き抜けば先は空で無限の宇宙に繋がる。下は板張りの、今風にいえばフローリングだ。

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小説「芙美湖葬送」読み切り版

小説「芙美湖葬送」読み切り版

心静かに死なせたかった

 昨夜も、主治医とは、二回目の器官挿管をどうするかについて話し合った。肺炎菌や、緑膿菌の他に、さまざま細菌が肺を侵しているから、もう自己呼吸が出来ない。器官挿管して、人工的に酸素を送るしかない。

 しかしそれも一週間が限度である。
 挿管と接触した部分に炎症が起きるから。一週間したら抜管して、新しいパイプと取り替えなければならない。その時にまた苦しむ。その苦しみを見てい

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小説「死ぬ準備」原稿順序不同版①

小説「死ぬ準備」原稿順序不同版①

第Ⅰ この星でうまれた

1-なぜか地球であるたまたま生まれたのが地球なら死ぬのも地球である。地球は太陽系第三惑星で太陽系全体からすれば小さな点にすぎない。その太陽系も天の川銀河系の辺境にある。天の川銀河系は太陽系などの恒星群を伴ってアンドロメダに近づいている。

その銀河系宇宙は、何処へ向かっているのか。
誰も知らないし知る必要もない。

そんな太陽系第三惑星・地球という小さな青い星に私は生まれ

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小説「芙美湖葬送」・掲載順序不動版

芙美湖、湖に還る 人は生まれ、生き、やがて土にかえる。思いも一緒に。土に埋める人もいるし海に流す人もいる。私は芙美湖への思いを小さな折り紙の船で湖に流した。すでに陽は落ちかかっていた。近くに安宿を取ってある。湖畔にあるからそこからでも湖は見える。

「芙美湖」という湖は富士五湖にはない。湖であればどこでもいい。たぶん河口湖当たりを指すのだろう。芙美湖との出会いはダンスホールだった。彼女は客の一人で

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小説「芙美湖葬送」仮目次&執筆資料

小説「芙美湖葬送」仮目次&執筆資料

以下は小説「芙美湖葬送」の構想・構成・テーマ・展開・物語・登場人物・当時の社会背景・などの書き置きメモす。小説掲載に並行して事前公表します。参考までに。

テーマ
①妻の死を語ることで医療を語る。
②妻の病を語ることで生と死を語る。
③妻の死を語ることで戦争、社会、不幸、格差を語る。
④妻の死を語ることで人生を語る。
⑤妻の死を語ることで未来を語る。

①戦争がなかったら空襲も疎開もなかった。疎開

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小説「芙美湖葬送」・順不同版

小説「芙美湖葬送」・順不同版

あれから60余年が過ぎた
街も人も風景も変わった。私も八十六歳になった。幾つかの大病を抱えている。あと十年は生きたいと思うけど、そうはいかないだろう。人も街も風景も変わった。若者は長身になった。女性の活躍は目覚ましい。でも喋っているのは日本語じゃない。何処の言葉だと聞かれても困る。

意味は通じる。でもこころが伝わらない。

全く別な国になった。異郷である。その異郷で死ぬ。だから死後にこだわらない

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「芙美湖葬送」④ー1

「芙美湖葬送」④ー1

医師は「時間の問題だ」といった

いまもコロナは収束していない

多くの老人が肺炎で死ぬ。どんな病気であれ多くの老人が肺炎で死ぬ。老人にとって肺炎は、死に至るもっとも身近な病気なのだ。芙美湖(妻の名前)もそうだった。長い病気だった。俗に膠原病といわれる。自己免疫疾患である。ステロイドを多用した。だから体がボロボロになっていた。

行き着く先が肺炎だ。
ナースステーション脇の部屋に移された。「面会謝

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