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小説「芙美湖葬送」読み切り版

心静かに死なせたかった

 昨夜も、主治医とは、二回目の器官挿管をどうするかについて話し合った。肺炎菌や、緑膿菌の他に、さまざま細菌が肺を侵しているから、もう自己呼吸が出来ない。器官挿管して、人工的に酸素を送るしかない。

 しかしそれも一週間が限度である。
 挿管と接触した部分に炎症が起きるから。一週間したら抜管して、新しいパイプと取り替えなければならない。その時にまた苦しむ。その苦しみを見ていられない、と私は思った。

 長女と私は、二回目の器官挿管は本人を苦しめるだけだからやりたくないといい、次女の琳子は助かることならどんなことでもして上げたいといった。しかしその助かる見込みは、と聞かれて医師は、仮に1%でも可能性があればやるのが医師の仕事です、といった。

 患者への答えにはなっていない。

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満85歳。台湾生まれ台湾育ち。さいごの軍国少年世代。戦後引き揚げの日本国籍者です。耐え難きを耐え、忍び難きを忍び頑張った。その日本も世界の底辺になりつつある。まだ墜ちるだろう。再再興のヒントは?老人の知恵と警告と提言を・・・どぞ。