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フロ読 vol.20 荒井修 いとうせいこう 『江戸のセンス』 集英社新書

江戸のセンスの話…と思っていたら本当に扇子職人さんのお話なのね。その扇子デザインのセンスの話が冴えわたる一冊。
 
縞というのはつかず離れず、常に交わらないというところが「いき」。特により平行線を意識させる縦縞が「いき」。これは九鬼周造『「いき」の構造』からの抜粋だが、その後の

永遠に変わらぬ平行線のことを男女の関係の理想の姿という

とか、芝居通が最後まで首をひねっていたという「高坏」のセンスの説明を一通りした後に、

そう説明すると、「ああそういえば」なんて、先に気がつけってなもんだけどね

と、言葉の彫琢がまずカッコいい…。
 
武家社会の能や狂言、町人の日本舞踊――これを知識で結ぶ。
 
情報の発信地たる江戸、地方はそれをいじって花を咲かせる。江戸と地方の流行りのやりとりが生むダイナミズム。この辺りはvol.18で書いた室町時代と似ているな。活気のある時代はやはり違う。
 
ここに二大悪所としての芝居小屋と廓がついてくる。そこからデザインを仕入れて来る通の目。
 
◇…ケシの実 + □…マス =ケシマス…消します。これが「い組」のまといとなる。
 
神田「よ組」は田の三枚羽根と中村芝翫丈の「芝翫縞」を組み合わせた「神田つなぎ」。
 
〇…輪 + カタカナの「カ」 =若千つなぎ。
 
いずれも、デザインの元の意味と組み合わせ。そのアレンジとそれを何に使うのかで決まる新しいデザイン。「どう売れるか」ではなく「どうあったら楽しいか」。この編集技術の土台となった時の流れを共有したい。
 
謂れのあるものが人を納得させる。そこに込められた「由」が意味の広がりを生んでいく。本当の教養は「楽しい」「知りたい」「カッコいい」から生まれてくるもの。

金稼ぎとは無縁のデザイン、ちょっと探しに行ってみようかな?


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