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極私的撰集〜夏ピリカグランプリより

2022夏ピリカグランプリ(1200字以内の掌篇コンクール)、運営の皆様お疲れ様でした。
今回も執筆・鑑賞ともに楽しませて戴きました。有難うございます。

やはり魅惑的だったテーマ「鏡」
作品も実に多彩で、いつの間にか全作読んでしまっており。

138の応募作はこちらに。

折角読んだので、極私的なお気に入りを10篇挙げておこうかと思います
(頗る偏りまくった只の感想文です。読み流してくださいませ。
誤解を招く表現があるかもしれませんが、ぜんぶ心底絶賛しておりますので、何卒御容赦のほど)。

知り合いの方以外の作品はリンクを貼っておりません。気になったら検索してみてくださいね。
順序は順位でなくマガジンの掲載順です。

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◆『ルージュの伝言』とき子さん
恋愛もの、ありそうで意外と少なかった?
読んでいる間ずっと、ユーミンと、そしてナゼか本文に書かれてもいない杏里の曲(何か分る人は分るでしょう)が、ノイズにまみれ時々レコードの回転数も狂いながら私の頭の中で流れつづけ、或る意味トランス状態であった。
結末を知って一から読み返すと更に、味わい深い。お試しを。

◆『子供の瞳の輝きの由来』泥辺五郎さん
無機質な特性に、フィジカルな生々しさが加えられた鏡の原……
誰にも出来ない着想および、グロテスク且つ清廉・理知的な描写はまさに泥辺節。
「一組の男女が取り残された」の辺りで、泣かせるような話でもないのに鷲掴みにされ、鳥肌が立った。
終盤の日常風景は分離しているようで、不思議に絡み合う。「本当でも嘘みたいに、嘘でも本当みたいに」ってセリフもいいな。

◆『マイナンバーミラー』ume15さん
温かさと、こわいようなクールさ。SF的な未来感と、アルカイック又は普遍的な風情との表裏一体が、ume15さんの魅力。今回のテーマはまさに相応しく、予め用意されていたかのよう。
マイナンバーミラー、あったら欲しいような気もするが……「誕生は鏡の中から出てくること(中略)死は鏡の中に戻ること」という言葉が、真実のように思え、重い。神的なものとサイエンスの交わりは、やはり禁忌か。

◆『鏡の中のボレロ』月山六太さん
爽やか青春モノ?
いやコメディ?
いやそれとも耽美な幻想譚?
どれでもある。凄いことだ。
情報量が多いながら巧みな言葉ですんなり此方に入り込む背景や音楽、主人公の美的且つ哀感あるイメージに対し、繰り広げられる「なんでそうなる?」というキャラ達の行動が実に、小気味良く。まさしく『ボレロ』の如く奇妙なテンションは終始維持される。
バレエ部でなく「踊り部」というのがまた。公演を観たい。

◆『神々の甘噛み』穂音さん
こちらもまた、状況およびキャラの様子が実に特異で、説明も普通ならば困難を窮めようが。
筆者御本人に(おそらく)少しの迷いもない堅牢たる世界観のスケッチにより、あっさり私の中にも夜がきて、手も足も絡めとられ巻き込まれてしまう(私も塵なのか?)。
美女も良いが何より、猫とか狐とかでなく、犬が妖気を放つ所に新しさを覚える。天使の如く無垢で清らかにちがいない風貌が却って恐怖をそそる。

◆『みにくいちくびのこ』おだんごさん
ほんとに現役(アイドル)の人物が書きましたか? と耳打ちしたくなるほどのリアリティーにゾクゾク、ヒリヒリ。
「誰にでもできるやつだ」という一文が響いた。業界にのめり込み泥水啜っていなければ(たぶん)出てこない言葉。
ざっと一読しただけでは鏡のテーマが活きていないようにも感じるが、再読すれば主人公が鏡に立つ場面のみならず、銭湯に溢れかえる乳首が合わせ鏡的で、迫力、且つシュール。

◆『ミラーリング・インフェルノ』めろさん
コメディはこの小説コンクールに限らず少数派のジャンルだと思う。感動や恐怖を描くより遥かに難しい。リズム感が要るし、そもそも読み手により笑いのツボの差異がある。
本作はクスリ笑わす程度の仕掛けではなく、最後の最後までコント並に笑いに全力疾走、真っ向勝負。奇異な設定ながらも取っ付き易い仕上がりは、相当熟れてらっしゃると言うか、もしやステージにお立ちですか?
この作品実写化も出来そう。

◆『鏡の向こうは透明』koedananafusiさん
この話を「現実逃避の末の悲劇」と私は捉えなかった。
カラーと透明の世界がふたつ存在し、只選択をしただけの、幻想譚だと思っている(逃げるほど主人公が生き辛そうには見えなかったし、どちらかと言えばアリス的に能動的なのが好印象)。
「透明」の側でも彼女はきっとまた「透明」な男子やお母さんや先生と出会い、質は違えどそちらでもそれなりの悩みを抱え生きるのだろう。

◆『ねえおかあさん』師走さん
化粧の終らない母、待ちくたびれた子供、そして……暴走してゆくイメージ。あれよあれよと言う間に色や形状さえも崩れては、新たに不可思議なものを造形する。1000字に満たない中、大胆な流れが面白い。
描かれるのは母子の間にある愛憎なのか。だとしてそれは、飽くまで内面に一瞬掠める程度の夢みたいなものか、それとも既に手遅れなレベルの……? 解釈は読み手に委ねられる。

◆『22才の別れ』コノエミズさん
伊勢正三の曲からイメージして書かれたようだが、曲を聴かず単独で読むべきオリジナリティーがある。歌詞そのままの部分もあるが味付けされているし。
特にバスに乗って以降、カップル二人の未確認情報が次々明かされてゆく様はもはや歌へのオマージュましてや「チープなトレンディドラマ」等ではない、読者にとっての冒険譚だ。ラスト、予想外にくる視点の切り替えもいい。

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此方も大変勉強になりました。有難うございました。



©2022TSURUOMUKAWA

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