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story アズと子ヤギ〜不自由な右足〜

アズはひとり牧草地にいた
膝に乗せて抱いているのは
母親を亡くしたヤギの子
唯一アズが心許せる友だち

アズは右足が不自由だった
歩き始めたばかりの頃
農作業中の母の元へ行こうとして
農耕用の車輪に踏まれた

小さなアズは家の中で
お昼寝をしているはずだったし
作業場に近づいても
誰の目にも入らず
気づかれなかった

突然の鳴き声で
大人たちは青くなった 
急いで町医者に
診てもらったけれど
右足は歪になった

アズのお母さんは
それからずっと
自分を責めている

アズは右足のせいで
他の子どもたちの
遊びに入れないことが
あったがそれは
寂しいことではなかった

ただお母さんの
辛そうな顔が
アズの心を暗くした

そしてそんな時
右足は暗く湿った水の中で
冷えてかたくなるように
苦しくなった

ことばはこころ。枝先の葉や花は移り変わってゆくけれど、その幹は空へ向かい、その根は大地に深く伸びてゆく。水が巡り風が吹く。陰と光の中で様々ないのちが共に生き始める。移ろいと安らぎのことばの世界。その記録。