アズは時々
牧草地に行って
子ヤギが群れの仲間と
過ごす様子を見ていた

子ヤギはアズに気がつくと
そばへ寄ってくることもあれば
草を食んだままのことや
仲間のそばで佇んだまま
アズを見つめるだけのこともあった

アズはお父さんの言葉を
聞いてから

子ヤギが幸せなら
それで良いと思うように
なった

私たちは私たちの
楽しかった思い出が
あるものね

子ヤギはアズの
そんな気持ちが
分かるのか

何をするともなく
アズの隣で日向ぼっこ
することもあった

アズは自分の気持ちに
気づかれてしまったようで
恥ずかしかったけれど
たまらなく嬉しくもあった

そんな時
アズの気持ちは慰められた

お母さんも
同じ気持ちだろうか…

お母さん…
アズは家に帰ると
台所に立つお母さんに
抱きついた

お母さん…
お母さん…

いつも辛そうな
お母さんに
こうして甘えてみたのは
久しぶりだった

怖かったのだ
抱きついた時に
自分が受け入れて
もらえないかもしれないのが

そのせいで
お母さんに距離を
置いていたのは私なの

ごめんね…
ごめんね

私怖かったの…

アズ…
謝るのは
お母さんの方…

お母さんは
あなたから足の自由を
奪ってしまった

あなたの未来も
あなたの友だちも
あなたの笑顔も

違う…
それは違うよ

お母さん
私は足のことで
辛いことなんて何にもない

私が辛いのは
お母さんが
笑ってないことよ…

そこまで言うと
アズは泣いた

幼い子どもが
声を張り上げて泣くように

けれども
どこかほっとした

ようやく
本当の気持ちが
言えたから

お母さん
お母さん

もう私のことで
苦しまないで

私は何も
辛いことなんて
ないんだから

気づくとお父さんがいた
お父さんは

お母さんと私を
両方包み込むように抱きしめた

子ヤギは
自分の足で歩いて行った

私も歩けるよ
早くはないけれど
遠くまでは行けないけれど

見守っていて
お母さん

私もお母さんの幸せを
願っているから