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僕のバイブル。にゃるら著『蜘蛛』を読んで。

 自縛。
 それこそが、僕が未来に歩みだせない理由。
 僕の環境や歴史というのは、安寧そのものであった。
 社会や親が与えるレールの上をただ歩くだけの人生。他人と異なる道に進みたいと、どれほど思ったところで心の箍は外せない。親に相談したところで、強く反対されたらそれまで、意志の弱い自分は何も言い返せなかった。
 そうやって、何度諦めたことか。
 心の奥底、理性が効く表層心理ではない、深層心理に潜む声が、僕を安寧の地から離させないと意地を張る。強く、強く、縛り付ける。
 平凡でいるように、言い聞かせる。
 その声に理性が反論する。
 「俺にだってやりたいことがあるんだ!自由に生きたいんだ!」
 それを聴いた深層心理はさらに言い返す。僕の脳内は終わりなき無意味な論争に包まれる。聲が反響する。行き場のない怒りとやるせなさで溢れる。感情が抑えきれない。うるさい。うるさい。うるさい。

 この繰り返し。
 心の箍を外せない、未熟者の人生。
 僕は社会の地を這う、有象無象の一匹。 

 有象無象。正邪の混沌を極めし、人の群像。
 地の底から舞い上がった、一匹の蝶。そして、煌めく蝶の姿に見惚れた一匹の蜘蛛。
 蝶は見る者全てを魅了し、さらに高く、高く飛翔する。
 天井の無い、晴れ渡る空を延々と飛んで行く蝶。それを見かねた蜘蛛は、そんな蝶の生き様を羨ましく思った。
 蜘蛛は次第に、自分の糸で巣を張るようになった。
 最初はとっても小さい巣。毎日少しずつ、少しずつ大きくなる巣は、周囲の者たちを引き寄せ、虜にしてゆく。
 すっかり大きな巣を手にした蜘蛛は、「まだ、まだだ」と言いながら今日も巣を成長させる。
 いずれ、あの蝶にも届く位に高い場所まで巣を広げるんだ。蝶が、私のネットに引っ掛かるその日まで。
 巣の主は、身体に毒を有する、妖しくて艶かしい蜘蛛。その大きな瞳には、インターネットの迷える子羊達を救済する天使の姿が映っていた。

 僕は、そんな二人に打ちのめされた。
 自ら安寧を唾棄し、退路を断って、前に進む姿。
 「カッコいい」の一言が、思わず口から零れ出る。

 やらなくては。
 迸る強い使命感。
 僕も二人を追従する。失敗するかは関係ない。とにかくやる。やってみせるさ。

 もう、迷いはない。
 俺の好きにする。

まるで天使のように微笑む強めの幻覚。


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