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【連載小説】マジカル戦隊M.O.G.(第19回)

前略

待たせたな。
続きだ。
前回俺は敵の魔道士によってバラバラにされ、殺されてしまったんだったっけな。
その後のことだ。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

なんだか聞き覚えのある声がした。

あのしわがれ声だ。
例によって高い所から、巨大な二つの目玉で俺を見下ろしていた。
『再びワシの助けが必要になったか。』
『前のことはあまり覚えてないんです。でも、助けてください。』
俺は懇願した。
そこでの俺はバラバラではなく、なんだか草の種のような小さな塊だった。
『肉体を失ったか。ならば、より強固に我々は融合しなければならん。戦いを生き延びるために、戦うための体になるのだ。もはや元の生活には戻れぬかもしれぬぞ。よいのか?』
と声は言った。
『生きて帰れるなら、何だってします。あなたの力を俺にください!』
すると、声の主はフォッフォッと笑い、
『ならば、ワシの力、すべて貴様に預けようぞ。ワシの名を覚えておるか。』
俺は(ないはずの)肩をすくめた。
『残念ながら・・・』
『まぁよい。汝、言葉ではなく「心」にてワシの名を唱えよ。その名は・・・』


それは心の爆発だった。

その存在の名前は、言葉や思考ではない。
感情とその変化率、時間と同調する流れ、そういったものの連続で表されるのだ。
感情のパラメーターを、横向きに幾つか並べたものだと説明したら分かるだろうか。
いや、俺のつたない言葉では到底説明できまい。
まぁとにかくその瞬間、俺の意識は粉々に砕かれて拡散し、その広がりの中に様々な感情がどっとあふれ、意識の上に浮かんでは消えて、そしてまた浮かんできた。


憤怒、嫉妬、焦燥、歓喜、嘲笑、融和、共感、悲哀・・・


俺は、自分の心に湧き上がる感情のスープを泳ぎ、その具を闇雲につかんでは、口に運んだ。
ドロドロした熱いものから、キーンと冷えたものまでさまざまで、いい香りのするものやとても渋いものもあった。
そうこうしてるうちに俺は、それらの具を生み出している「感情のジェネレーター」がスープ皿の底のほうにあることに気づいた。
それを目指して、スープの海の深みに潜ると、意識のレベルからは見えない闇の中に、それは鎮座していた。

そこは心が、体と脳へつながっている中継点で、その場所の中心にあるのは、鉛色の金属に似ている暖かい球体だった。
俺は手を伸ばし、そのすべすべした表面にそっと触れた。

そして俺は知った。
感情の源にあるもの・・・この物体の名は【理解】なのだ。
肉体の様々な器官が周囲の音や光、感触を検知し、脳がそれらの情報を「世界」として一つに結びつける。
そしてそれが何であるのか、それが自分とどういう関係にあるのかを

【理解】

することが、感情を生み出す・・・。

こうして生み出された感情は、再び肉体へとフィードバックされ、そこから表情や言葉で世界へ放出され、そして宇宙に還元されていく・・・こうして人間の感情は、最終的にはなんと、宇宙そのものを組み立てる部品となっていくのだ。

それが俺たち人間という生き物の「働き」なのだ。
この世に人間が生まれてくる、そして増えていく理由なのだ。

驚きだ。
宇宙の秘密は、天国や異次元ではなく、いつでも俺たちのごく身近にあったのだ・・・まるで青い鳥のように。

この新しい、大きな【理解】を得た俺は、自分が再び生きることを知った。
生きて、しなければならないことがあるのを。

俺は【理解】から手を離し、顔を上げて感情のスープの水面のほうを見た。両手を広げ、心の奥深くからいくつかの感情をつむぎだして並べ・・・

「彼の名」を「叫んだ」。

その刹那、周囲の海は渦を巻き猛り狂い、残った具材とともに俺をぐんぐん押し上げ始めた。
やがて、あらゆる感情の雄叫びを上げる俺の体は、スープの海から弾丸のごとく飛び出した。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

俺は甲高い自分の咆哮で、再び目覚めた。
バラバラになったはずの体には、元通り手足がついていて、しかも傷一つなくなってる。
いや、それどころか、もっと驚くべきことが。
体中が真っ黒な羽毛で覆われ、顔からは黒い大きなくちばしが生えていた。
ひざから先は硬いうろこで幾重にも覆われ、三つ又の指先にはカギ爪がついている。
俺の体は人間だった頃よりずっと大きいようで、おそらく身長3メートルくらいになってるだろう。
周囲はどういうわけか、俺を中心に半径20メートルくらいのクレーターになっており、その外縁部で、いくつもの建物が円形にえぐられているのが見えた。 

『これが・・・これが俺か・・・。』

俺は少しずつ思い出していた。
あの時捕虜になっていた施設を、俺はこの体でずたずたに引き裂いた。
そして懐かしい匂いのするほうへ飛んで帰ったんだ。

今、再びこの力を手に入れた。
今度は前のときより、ずっと完全にこの世界に出てこれた。
そう、これは俺がもともと持っていた能力、すべてのMP保有者が持っている潜在能力なのだ。
前に書いたよな、MPが尽きた人間に起こる「魔人化」といわれる現象だ。
だが俺は、世にいわれる「魔人化」よりもずっと完全な形で、すべての能力を開放することに成功したんだ。

俺は目を上に向け、心の奥から「喜び」の感情を開放し、再び雄叫びを上げる。
それは人間の可聴域をあっさり超え、周囲の建造物の窓ガラスを、いっぺんに粉砕した。
俺は両腕を伸ばして翼に変え、まだ煙で黒っぽい空を目指して飛び上がった。

上空での魔法戦にはほぼ決着がついていた。
自軍の残存兵は散り散りに逃げ惑い、緑の制服を着た敵の魔道士が、それを追い回していた。
その追いかけっこにあぶれた緑の兵士は、上空から地上に向かって絨毯爆撃を敢行していた。

俺は赤い「怒り」の感情を開放し、周囲の黄色い「嘲り」や「優越感」をロックオンした。
と、頭上から無数のいかずちがはじけ飛び、敵の兵士だけを正確に狙い撃った。
彼らは何が起こったのかわからず、紫色の「焦燥」と黒い「恐怖」の色になって落下していった。
さらに俺はオレンジ色をした「慈愛」の感情を放出して、薄紫色の「戸惑い」を浮かべている自分の部隊に向けて光を放った。
柔らかい光のもやに包まれた彼らのMPは即座に満タンまで回復し、体の傷もすべて癒された。
彼らはピンク色をした「喜び」の感情を放出しながら、俺の周りに集まってきた。
俺を中心に、ピンクの花弁を持つバラの花畑ができあがった。 

『生き残った人たちを助けに行こう』 

俺はいくつかの感情をつむぎ合わせて、心で呼びかけた。
それは彼らにも理解できたらしく、バラの花はぱっと街へ散っていった。
街のあちらこちらから、「安堵」のレモン色があがり始めた。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

要するにだ、俺は世界で最初の、自らの意思で魔人化した人間になっちまったってことだ。
ちょっとスゴくないか??
もう笑うしかない。

・・・というわけで俺は今、軍の研究所で世話になってる。
俺だって自分の体がどうなったのか詳しく知りたいし、この力がもっともっとみんなの役に立てばと思って、研究に力を貸してる。
あ、軍に戻ってきたら自然に、俺は元の体に戻っちまった(もちろん全裸だったけど)。
いわゆる「変身能力」なのかもしれないけど、あれからは変身しようとしても、あの体にはなれないでいる。

もしかして、また死にかけなきゃいけないのかな?
やだなぁ・・・痛いんだもん。
ま、しばらくすれば研究結果が分かってくるだろうし、そしたらお前さんには、また手紙で詳しく報告することにするよ。
長くなったし、今日の手紙はこの辺までにしとく。

またな。

早々



「ニンゲンのトリセツ」著者、リリジャス・クリエイター。京都でちまちま生きているぶよんぶよんのオジサンです。新作の原稿を転載中、長編小説連載中。みんなの投げ銭まってるぜ!(笑)