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釜石には未来しかない(釜石までの道 2011年〜2020年⑥)

2011年8月、宝来館。
夏合宿を兼ねて「復興育成中学ラグビー大会」に参加するために釜石にやってきた青山学院中等部ラグビー部。
彼らを前にして、宝来館のおかみさんの挨拶が続いている。

「たいしたもんだと思いました。
あなたたちの学校の先生たちも、お父さんもお母さんも。
義務教育の児童生徒で、この被災地のど真ん中にやってきたのは、
あなたたちが初めてです。
ひ弱さと思っていた東京の中学生が、
こんな立派だとは思っていなかったし(笑)」

生徒たちも笑った。
ひ弱ではないが、立派でもない、という自覚があるからかも。

「わたし、東京にいくたびに思うことがあるんです。
東京って、愛おしいなあ、って。
わたしたちがなくしちゃったものが、ぜんぶある。
持っていなかったものもたくさんある。
宝石のような街だなあ、って。

でも、東京って過去だな、過去の上に積み上がっている
宝物であり石であり、玉石混交……」

ごめんなさいね、東京から来た人たちに、
とおかみさんははっとして詫びるが、
本気でごめんなさいとは思っていない。

「でも、未来はわたしたちのこの、被災地にこそある。
津波で、過去がぜんぶ流されてしまったから、
わたしたちには未来しかないんです」

想定外の自然の力はすべてを破壊する

ということを、外国のメディアにしゃべったらしい。
すると、

「『未来しかないかもしれないけど、その未来には津波もある。
また必ず津波が来る。なぜここに住み続けるのか?』
っていうんです。
わたしたちは愚かなのかもしれない。
だけど、どこに住んでいても想定外のことが起こったら、
めちゃくちゃに壊されるんです。
『経験したことがない大雨が降る』
っていう天気予報があるでしょ。
わたしたちが経験したことがないことが起こるんです。
地震だけじゃない、津波だけじゃない、
大雨でも大風でもなんでも、
想定外のことが起こると、
人間がつくったものはそれに耐えられない、
すべて壊されてしまうんです。
建物も、道路も橋も、
想定外のことが起こったら壊れちゃうんです。

これまで経験したことがないことは、
東京では絶対に起こらないんですか?」

「わたしたちは、またここに家を建てます、仕事場を建てます。
そして、大きな地震が来たら、想定してないことが起こったら、
走って逃げます。
津波がやってくる前に、走って逃げればいいんです」

宝来館の裏の避難道を歩いて登る

主役はあなたたち

「わたしたちには『想定しちゃダメだ』という防災意識があります。
子どもたちは『想定するな、自分たちで生き残れ』と教えられます。
今回の津波で生き残った子どもたちは、
あと10年したら、あと20年したら、
子どもが生まれて親になります。
建物は壊れたっていいんです。
人が生き残っていれば、
社会は再生できるんです。

日本が世界に見せてやれるのは、
すぐに再生できる、ってこと。
へこたれない、ってこと。
わたしたち大人は生き続けて、
それをあなたたちに伝えないといけない。
あなたたちは、自分たちの子どもに伝えないといけない。
世界から尊敬される日本をつくるのは、
あなたたちなんです」

外でも食事した
盛り付けの指示
献立表