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異業種への転身ではあるけれど

定年退職後のことを考え始めたのは50歳のとき。

古民家をリノベーションしてゲストハウスをつくり、
趣味の陶芸を活かしてアトリエとギャラリーを併設し、
カフェには地元の人たちも来てもらえるようにする。
そんな、居心地のいい空間にしたい。

サラリーマンならみんなそう思うのかもしれない。
ひところのそば打ち職人のように。

ゲストハウスはホテルよりサービスが簡便でいいから、
お客さんがチェックインしたら、
少し世間話をしながらファシリティの使い方や約束事を説明して、
美味しいものを食べさせる地元のお店を紹介して、
あとはチェックアウトまでお任せ。
もし朝食が食べたいなら、トーストとサラダとオレンジジュースとコーヒーを用意する。
なんなら、パンは行列しないといけないパン屋のパンより美味しいはずのホームベーカリーで焼いた自家製のパン。

脱サラ(うわ〜)そば打ち職人は、お店を構えてしばらくすると閉店。
もしくは、お店を構える前に終了。
人生そんなに甘くはない。
夢や理想だけでは食べていけない。
事業計画ができてない。
資金調達は退職金と預貯金のみ。
雇ったアルバイトは、かつての部下のようにあつかう。

淡路島のヒロユキさんとテルヨさんの古民家ゲストハウス「寿庵」は、
予約でいっぱい。
都市に近いけど自然豊かなロケーションで、
コロナで逆に稼働率があがっている。

古民家ではなく、古民家を買い取って「古民家風」に仕立てて、
雑誌に出てくるような(じっさいに雑誌に出ている)おしゃれな造り、
トイレもお風呂もベッドもエアコンも快適、
個室もあれば二段ベッドのドミトリーもある。
おカネをふんだんにかけて、かゆいところに手が届きまくっている。
ネットでの評価は9以上。

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ヒロユキさんは広告代理店に勤めながら、
まずは徹底した調査から始まった。
古民家に関する書籍を読み漁り、
モデルハウスを見学しまくり、
事業計画書を何度も書き直しながら練りまくり、
自治体の補助金、政府系金融機関の低金利融資を探し出して、
パワポで資料をつくってプレゼンテーション。

広告代理店のクリエイターが広告をつくる手法そのまま。

いよいよ定年退職のゴールが見えてきたら、
リサーチと研究に、現地調査も加わる。
東京にいてもgoogleマップであたりをつけ、
クルマで淡路島中を走り回り、
気になる物件を見つけると不動産屋に問い合わせ、
いまの物件に出会うまでに何度か成約の機会はあったが、
ちょっとでも気になるところが見つかると手放し、
5年の時間をかけて、ようやく理想の物件を手に入れる。

5年、諦めなかった。

建築士とのやりとりも臆さず主張する。
すでに古民家にかんする知識は蓄積されているし、
細部にまでこだわり抜くし。
なんなら徹夜もじさないくらいの粘り腰、
大工さんといっしょに作業をして一体感ある雰囲気づくり、チームビルディング。
制作に1年。

だから、ビジネスパーソンからゲストハウスのオーナーへの転身は、
異業種ではあるけれど、手法は現役のときのスキルとスピリット。
ここに、セカンドライフの成功の秘訣がある。

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会社員時代の働き方、スキルと経験の積み上げがいかに大事か、
会社勤めをしたことがないわたしにもありありとわかる、
居心地の良すぎる古民家ゲストハウスだった。