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釜石に来て一番のうれしさ

なんか、うれしかった。

「第2回ビブリオバトルinとしょかん」に、バトラー(発表者)として参加した。
釜石市立図書館に、観客30人、バトラー5人。

バトラーは、自分がオモシロイと思っている本を持ってきて、
観客の前でプレゼンテーションする。
観客との質疑応答があって「あ〜、この本読みたくなった〜」ら、
投票によってチャンプ本が決まる。

わたしは毎日1時間は本を読んでるし、紹介したい本だらけだし、
たった5分のトークだけのプレゼンだし、
まあそんなにムズカシクはないか、とバトラー役を引き受けていた。

当日、控室に入ってビビった。
わたしが持っていった本は『あしたがすき』という絵本。
こすもす公園の希望の壁画ができるまでを描いたもので、
7月1日に閉園宣言をしたことをもっと知ってもらいたいのと、
まだまだ遊べますよとPRしたいのとで、
この絵本を選んでいた。

ところが。

ママの絵本にはかなわない

バトラーのアズサさんとノドカさんも絵本。
2人ともママ。
これは勝てない。

わたしは、プレゼンの冒頭で、
「みなさん、こすもす公園を知ってますか?」
で、学生がよくやるプレゼン「突然ですが質問です」をやって、
「昨日、閉園しました」
とキラーワードを入れてぐいっとお客さんのココロをぐいっとつかみ、
5分間、エピソードトークをする作戦だった。

いや、これじゃないな。
ネガティブスタートからの〜〜、という段取りでは、
ママふたりとの絵本バトルはよりムズカシクなってくる。
ママとおっさんの絵本プレゼン、どっちに票が入るか火を見るより明らかだ。

豈図(あにはか)らんや。

バトラーみんなプレゼンが上手すぎる

スターターのアズサさんは、『おこだでませんように』。
七夕の短冊に書いた願い事の話で、
時期的にバッチリだし、プレゼンもうまい。

2番目のニノミヤさんはビジネス畑の男性で、
バトル本は、『エンド・オブ・ライフ』。

お客さんを見渡せば、高齢者と本好きの人が多そうだ。
そりゃそうだよなあ、土曜日午後に図書館のイベントに来る人って。
これも「お見事!」と叫びたくなるマーケティングであると同時に、
原稿を書いてそれを読みながらプレゼンする用意周到さ。
(あ〜〜、小さな飲み会のカンパイの発声も手を抜くな、と師匠からいわれ続けているのになあ……と、猛烈に反省)

わたしが3番目で、4番目がアオイちゃん。
この子は一瞬にして人から好かれるキャラクターで、
しかもバトル本は『ジブリの立体建造物展』。

ジブリかあ……。
やっぱり質疑応答のときにジブリラブな質問もでて、
ジブリの強さは揺るがなかった。

しかもプレゼン後半には、
「釜石に来てちょうど一年たちました。
いろんな方に街を案内していただいて、
釜石の裏路地の特徴的な建物とか、
なぜイオンがあの場所に建てられたのか、とか、
震災後につくられた防潮堤が場所によって高さが違うのはなぜか、とか」

あ〜〜〜〜〜、上手い〜〜!
ジブリの「立体建造物」と釜石のそれをつなげて、
プレゼンの構成も申し分ないし、
なによりお年寄りの気持ちもガッチリつかんじゃった〜。

もしかして最下位?
という恐怖心を、「もしかして」から確信に変えたのが、
ノドカさんの『だいすき ぎゅっぎゅっ』。

自分のお子さんとのプレイベートな感動エピソードで、
感極まってちょっと涙声になったノドカさんにはもう、
お客さんだけではなく、図書館スタッフもケーブルテレビの取材陣もわれわれバトラーも、
「なんていい話を聞けたんだ、来てよかった〜」
と心底思った。

さて。

絵本からコウペンちゃんに

わたしは、『コウペンちゃんとまなぶ 世界の名画』をプレゼンした。
予備として持ってきたわけではなく、
バトラーの人たちにオススメしようと持ってきた本だった。

プレゼンは、毎朝の読書会メンバーのヒコママのエピソードを紹介して、
最前列に座っているお客さん(友人)に、コウペンちゃん本をわたして、
「ぱっと開いた絵を観てください」
とお願いする。
10秒ぐらいおまかせして、本を返してもらう。
本は見開きで、左が解説、右に名画が載っている。
質問。
「絵をどのくらいの時間、観ましたか?」
お客さん(友人)は元新聞記者だから、
テキストの方に目が行くことは予想できたし、
いじりネタにしてもあとから「ごめん」で許してもらえるかもだし、
でも友人の、
「ちらっとだけしか観てなくて、すぐに解説を読んじゃった」

我が意を得たり。

日本人は美術館でも絵画の前に数十秒しか立ち止まらない。
絵を見て、そばにあるキャプションを読んで、
また絵を見てキャプションに書いてあったことを確認する。

キャプションという解説と、目の前の絵とを一致させて、
それが「正解」であることを確認して、安心する。

これは観光客パターンと同じで、
事前にサイトやSNSで見た写真と目の前の風景が同じであることを確認するために旅行する、という、観光あるある。

絵を観ることは正解を探すことじゃなく、
自分の感覚によって遊んじゃうことであり、
作者の意図を読み取ろうとする知的な活動である、
という『こどもと大人のための ミュージアム思考』で仕入れた知識を、
プレゼンテーションでは、さも持論のように展開した。

そして。

5分の持ち時間のラスト1分を知らせるリンがなったとき、
わたしはそばに置いておいた『あしたがすき』に本を切り替えて、
こすもす公園が閉園したこと、
でもまだ入れること、
もう一度、ゆっくりと「希望の壁画」を観てみてください、
自分の目で、ゆっくりと、希望の壁画を眺めてみてください。

ということで、5分ちょうどでプレゼンを終えた。

この合わせ技が功を奏していたんだろう、
投票ではトップをとってチャンピオンになった。

これは、うれしかった。

初めて認められたかも

移住してきて、来月で2年になる。
早稲田大学も辞めて、新しいことにチャレンジしている。

楽しくはあるし、ワクワクもするけど、
それだけではなく、不安もいっぱいある。
釜石に来て、釜石の役に立っている実感もないし、
仕事で声がかかることもない。
東京での仕事も、約束が反故にされたこともある。

自己肯定感がどんどん低くなっていく。
おれってこんなもんだったのか? という沼にハマっていく。

それに耐えるためにも、
「ありがとう」「やってみよう」「なんとかなる」「自分らしく」
の「幸せの4因子」を唱えながら、
本を読んだりのインプットと、日記のようなことをnoteに書いてアウトプットを続けてきた。

ビブリオバトルに来てくれたお客さんは釜石の人たち、
バトラーとして選んでくれたのも釜石の本屋さん。

おもちゃのようなチャンピオンカップを手渡されたとき、
やっと釜石の人たちに認められた思いがした。
自己肯定感が、ふっと上がった。

だからなんか、うれしかった。


『コウペンちゃんとまなぶ 世界の名画』 イラスト:るるてあ 監修・著:稲庭彩和子 著鮫島圭代 KADOKAWA 2021年
『あしたがすき』 文:指田和 絵:阿部恭子 ポプラ社 2016年
『こどもと大人のための ミュージアム思考』 稲庭彩和子 左右社 2022年
『おこだでませんように』 作:くすのきしげのり 絵:石井聖岳 小学館 2008年
『エンド・オブ・ライフ』 佐々涼子 集英社インターナショナル 2020年
『ジブリの立体建造物展』 トゥーヴァージンズ 2021年
『だいすき ぎゅっぎゅっ』 文:フィリス・ゲイシャイトー 文:ミム・グリーン 絵:デイヴィッド・ウォーカー 翻訳:福本友美子 岩崎書店 2012年