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イーグルス・ファースト / Eagles 1972

ロックの殿堂、さらにアメリカ・ポピュラー・ミュージックの文化遺産とまでなったイーグルス。その記念すべきファースト・アルバム。


イギリス名プロデューサーのグリン・ジョーンズの難関オファー

新設間もないアサイラム・レコードは、目玉となる作品とグループをどこよりも渇望していた。ビートルズとローリング・ストーンズと両方で実績を積み、最先端のロックのノウハウを持つ人物へのプロデュース依頼は容易ではなかった。
数度の交渉を経たがレコーディングは1972年2月、ロンドンのオリンピック・スタジオで行い実現に漕ぎ着けた。


メンバー

グレン・フライ ボーカル、ギター、スライドギター
ドン・ヘンリー ボーカル、ドラム
バーニー・レドン ボーカル、ギター、バンジョー
ランディ・マイズナー ボーカル、ベース

収録曲

Take It Easy
Witchy Woman
Chug All Night
Most of Us Are Sad
Nightingale
Train Leaves Here This Morning
Take the Devil
Earlybird
Peaceful Easy Feeling
Tryin'


曲目感想

Take It Easy

アサイラム・レコードの社長、デビッド・ゲフィンが(早々に)売り出したいアーティストで新人のジャクソン・ブラウンとグレン・フライの共作。アルバム発売の先行1か月早くシングルでリリースされた曲。

イントロのアコースティック・ギターのGのコードの開放弦のストロークの粒立ちが際立っているのが印象的。そのきらびやかな響きは、LAのハイウェイを軽快に駆け抜ける車のごとく颯爽としている。
4人のメンバーの分担されたコーラス・ワークは精緻に計算されている。

演奏の楽器も奥行から音の重ね方まで丁寧に構築されている。
まさにイーグルスという「羽ばたいた瞬間だった」代表曲。


Witchy Woman

マイナー・ブルース・ロックで2本のエレキ・ギターは左右のチャンネルで異なったフレーズが鳴っている。中盤のツイン・リードなどの重たいフレーズから、歌の裏で鳴るアコースティック・ギターの開放弦のワン・ショット
のフレーズとテレキャスターのカッティングなど楽器の構成や重なり具合が練られている。

ランディー・マイズナーの弾くベース・ラインも割と響くように音の配置がされている。ブリティッシュ・ロックとも言える仕上がりはグリン・ジョーンズのミキシングの手腕が重要なファクターとなっている。


Chug All Night

ギターのテレキャスターをブーストさせている。焦げたスモーキーなギター・サウンドが印象的。
グレン・フライのメインボーカルと寄り沿うランディ・マイズナーのボーカルの交差具合などはイーグルスのストロング・ポイントだ。元々のハーモニーも良いのだが、さらに録音とミックス配置加減が高度な仕上がりを見せている。

レッド・ツェッペリンとも仕事の実績があるので、ギターの鳴らし方やワイルドなロックのアプローチなどグリン・ジョーンズの的確な仕事ぶりが冴え渡る。


Most of Us Are Sad

イギリス人のグリン・ジョーンズがわざわざLAに赴き、リハーサルでこの曲のハーモニーを聴いた時の感動がプロデュースを受けるきっかけとなった曲。

ランディ・マイズナーのメインのボーカルが、かつて在籍していたポコというグループを感じさせる作風になっている。
そのグループと同等のクオリティを持ち、ボーカルとハーモニーの美しさに加え、はかない哀愁や影も同居している。
また彼の弾くベース・ラインも少ない音数だが、歌心のあるメロディ・ラインも注目だ。

4声のハーモニーの流麗さが、初期イーグルの特徴であり、それがとても生かされた代表ナンバー。


Nightingale

中心メンバーのドン・ヘンリーの作品中2曲のうちのリード・ボーカル曲。
溌溂としたロックン・ロールで、ボーカルと兼業するもっさりした8ビートのドラムが独特のノリを感じさせる。またここも彼にしか持ち合わせていない「歌心」を感じさせるドラムなのだ。

ドン・ヘンリーのボーカル曲はこの曲を最初に録音した。この曲を聴いてレコード会社のデヴィッド・ゲフィンは2曲目のWitchy Woman を追加で歌うべきと判断したようだ。
そうした直感的に潜んだ彼のボーカルに潜む「何か」、それはバンドが飛躍するカギを握っていた。


Train Leaves Here This Morning

リード・ボーカルがバーニー・レドン。元バーズのジーン・クラークと共作した曲。お馴染みの4声ハーモニーは「Most of Us Are Sad 」と同様のクオリティだ。プロデューサーのグリン・ジョーンズが惚れ込んだバンドのハーモニーの長所を足した曲を収録したかったのではないだろうか。

そしてコーラスを前面に活かすために、アコースティック・ギターを左右に振り分け、加減としてもマイルドなストロークの鳴動にして、楽器演奏も必要最低限のチャンネルにとどめている。

初期のイーグルスでメンバーもフラットでいられた人間関係によって無し得た曲とも言える。


Take the Devil

マイナー・コードのアコースティック・ギターは、音に隙間が大きく、それがアルバム・ジャケットにある砂漠とサボテンのイメージと合致している。

ギターはテレキャスター特有の粘りのある渾身のフレーズが聴ける。それがブリティッシュ・ロックにあるストイックさと通じる。骨太でジャストなオーバー・ドライブされた歪み。しかも音が乾いている。グリン・ジョーンズも自身の持っているギターのサウンドのノウハウが生かされている。


Earlybird

作詞作曲はバーニー・レドンとランディ・マイズナーでリード・ボーカルはバーニー・レドン。

バンジョーとハーモニクスを詰め込んだギターが左右に分かれて聴こえる熱いフレーズも聴きどころ。
様々な弦楽器がここでも精緻に整理されてすっきりと録音とミックスがされている。


Peaceful Easy Feeling

グレン・フライがボーカルを取っている。イーグルスの数多いヒット曲でも外すことの出来ないナンバー。アルバム作品中のTake It Easyとこの曲は本作対の様な存在だ。

ギターで注目すべき点としてバーニー・レドンがストリング・ベンダー・テレキャスターを使っているのが聴けることだ。

カントリーミュージックの表現の可能性を広げた改造ギターはとても希少な存在だ。発明者のクラレンス・ホワイトとジーン・パーソンズからオーサライズドされるとしたら現時点でバーニー・レドン、彼しかいない。

歌のバッキングでは控え目にベンドし、ソロ部分では2音を(ダブルで)ベンドするペダル・スティール・フレーズは、ストリング・ベンダーの真骨頂のフレーズを聴かせてくれている。
ザ・バーズのカントリー・ロックがここに受け継がれている。


Tryin'

ラストはランディ・マイズナー作詞作曲のリード・ボーカルのナンバー。彼のボーカル面でのバンドの重要度が一番高い。この辺がファースト・アルバムの特徴ともいえる。



総論

近代のニュー・カントリーにもイーグルスの音楽エッセンスは脈々と受け継がれており、功績は大きい。

グレン・フライとドン・ヘンリーがコアのメンバーとなり、バンド実績のある有能な2人メンバーを取り込むことが出来た。

バーニー・レドン
ギタリストのバーニー・レドンのギター・プレイは多岐に渡り、高いバンド貢献している。
バンドの一員としてコミットしているのというよりは、深い部分であるが、粛々と与えられた役割をこなしている感じだ。自己表現欲求よりかは、高度な演奏スキルをイーグルスで提供している様に聴こえる。

グラム・パーソンズという超カリスマがいたフライング・ブリトー・ブラザースでの濃密なバンド体験は、グレン・フライとドン・ヘンリーには持ち合わせていない人生の深さがある。

ランディ・マイズナー
ポコというカントリー・ロックの先鞭を付けた歴史的バンドに在籍し、中心的に彼は活躍していた。
ボーカルとコーラス、ハーモニーも彼が加わっていなければ、当初消極的だったグリン・ジョーンズのプロデュースも実現し得なかっただろう。



メンバーの権限がほぼ均等に振り分けられ、スマートに整合された1970年代前半のアメリカン・ロックの名盤


終わり

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