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【観劇レポ】 ロンドン『Guys & Dolls』 @体験型劇場

昨年帝劇でも上演された本作が、ロンドンにて、体現型 (immersive) の演出で上演されています。

劇場: Bridge Theatre

テムズ側沿い、London Tower Bridgeの近くの劇場です。
2017年の建設以来、様々な舞台機構に対応可能な immersive (体験型) 劇場を目指しているようです。
場内は、4四方に客席があり、中央のスタンディングエリアに島のようにステージが取られます。キャパは合わせて900。私はスタンディングエリアで観劇。オケが客席の一方の客席の2階にあり (以下写真参照) よく見えました👀


赤いネオンライトが華やかな劇場入口


吊るされたランプがラプンツェルみたいで可愛いロビー

↑このエリアにバーやクローク、ボックスオフィスもあります。
お洒落なレストランのような雰囲気で、開演直前まで大勢がお酒を楽しんでいました🍷
スタンディングエリアの人はマストで上着と荷物を預けます。

スタンディングエリアを伴う舞台機構

スタンディングエリア一帯が、物語の世界です。
その中で「卍」ぽい形で舞台が取られ、シーンに応じて各パーツが迫り上がって島を作ります。四角いステージだったり、通路ぽい細長いステージだったり、自由自在です。
360度各方面に観客がいるので、セットに限りがある (背景画像を出せない、高さのあるものは置けない、とか) 。と思いきや、吊るされたカラフルなネオンの看板や凝った小道具により、再現率がとても高かったです。シーンによって雰囲気がガラッと変わる。見事でした。

ステージの上下や、セット・小道具運搬やキャストさんの動線確保に伴うスタンディングの観客の移動は、スタッフさんが誘導してくれます。全動線と順番を覚えて必要なタイミングで動くスタッフさんたちに脱帽でした。結構な頻度で移動があり、ビッグナンバーの途中に後ろから肩を叩かれて促されることも。そこは若干不便さを感じました。

迫り上がってくる舞台


受けたのは「映画ぽい」という印象。
映画やドラマでは、注目すべき言動が切り取られ、ズームされ、観る人の理解や解釈のガイドが丁寧にされる。他方舞台では、カットもズームもなしに世界全体を描き、その中に数あるストーリーのうちの1つとして進めるため、観客の注目や理解・解釈の自由度が高い。と、私は解釈しています。
それで、今回の『Guys & Dolls』は、前者の印象が強かった。
必要最低限のところだけ持ち上がるからか、ステージが近いからか、ストーリーの主軸だけを常に追っている感じ。普通の舞台で視界に入る、主軸以外 (スポットライトが当たらない人の行動や表情からサブストーリーを想像する等) になかなか意識が向かない。舞台本来の良さが出ていない感じ。
決して物足りないとかではないですけどね。

ロンドンならではのパーティ的観劇スタイル🕺

舞台と客席の距離が凄く近いので、客席の反応がキャストさんにも確実に届いており、一体感が強いです。観客の笑い声や歓声は生の芸術における大事な1ピースだなあと再実感。
キャストさんがスタンディングエリアを通って舞台に向かう時にはビラをもらえたり、ダンスパーティーのシーンではマラカスみたいなのが一部観客に配られてそれを振って参加したり。水族館のイルカショーごとくステージから客席に水が飛んでくるシーンも。2幕頭のナイトクラブのシーンでは、選ばれた観客が実際に机に座ってエキストラ参加!

エキストラ参加の観客が座る机のセット


休憩中にはキャストさんによるプチコンサートやタップダンス披露が行われるのですが (休憩とは) 、客席も大盛り上がり。歌い終わったキャストさんが、1列目で踊っていた女の子の頬にキスする様子も。ロンドン!!
カーテンコール後には、舞台がスタンディングの高さまで下がり、キャストさんと観客が混ざって音楽に合わせて踊るクラブと化します。キャストさんと写真を撮ったりペアダンスしたり。ロンドン!!
高貴で上品な趣味である舞台に若者受けの良いクラブ的要素を掛け合わせたことにより、客層がかなり他と違った気がします。スタンディングには複数人で来ている若者が多く、露出度高めなお洋服。
舞台のカジュアルダウンを目指し、より若者に親しみやすいものにする上で、とっても成功している舞台だと思いました。他方で、日本人はまた違った嗜好・文化を持つので、これを日本でそのまま上演するのは厳しそうだなあ、とも感じました。ノリの良さとか、アドリブダンスとか、あんま得意としないじゃないですが、日本人って。まさにロンドンでしかできない、ロンドンでするからこそ価値の高い経験でした🌟

休憩中のパフォーマンス


またこのimmersive演出は、華やかなシーンが多く、かつハッピーエンドな本作だからこそ良さが際立つと思いました。
ナイトクラブのダンスシーンやパーティーシーンってきっと普通の舞台だと俯瞰になりすぎてしまうし、誰も死なずに各カップルが成立する綺麗なハッピーエンドも普通の舞台だと単調になりすぎてしまう、と思うんですね。でも、immersiveの演出で、より至近距離で世界に入り込んで登場人物と化して楽しむので、ダンスシーンもハッピーエンドもとっても楽しい。
逆にレミゼやWSSみたいな重いエンディングだとただただ立ち尽くてしまいそう。
向き不向きの問題。そして、ガイズとこの演出は相性抜群!!

『Guys & Dolls』の世界

なんとも魅力的な世界観でした。
ストーリーラインは複雑めなので予習推奨。
スカイとサラ、ネイサンとアデレイド、全く状況もタイプも違う2組のカップルが、豊かな装飾品と共に舞台で輝きます。

スカイがイケメン、スタイル良い。
サラが美女。芯がありサバサバしている強くて格好良い女性像に、綺麗な目鼻立ちと上品なブロンドの髪とスタイル抜群な身体のラインに沿った衣装がより一層魅力を持たせます。惚。高くて透き通った綺麗な声も素敵。
特に印象的だったのが、1幕ラスト、スカイとサラの 'I've never been in love' のシーン。その前のパーティのシーンで、サラがベロベロに酔い、他の参加者と水を掛け合う泥沼状態と化し、スカイも巻き込まれ…という様子が描かれるのですが、ここの泥酔の演技が上手すぎるんですねサラさん。'I've never been in love' はその後NYに帰って来て、街頭の下で2人が結ばれる様子を描いているのですが、どんちゃん騒ぎ後に若干酔いが覚めて夜風に当たりながら残っている熱を冷ます感じがすごーくリアル。2人共髪が濡れて崩れている様子とか、洋服のだらしなさとか、スカイのジャケットをサラが羽織っているのとか、ほんっとうにリアル。実際はお酒なんて入れていないのに、酔った様子から酔いが覚めた疲労感を伴う気持ちよさまで忠実に表現されていました。そんな2人が醸し出す空気感が、奏でる歌が、ロマンチックで美しかったです。

ネイサン、なんとも言えない冴えなさが良い。海外では、キラキラ舞台俳優!ぽくない人も、というかそういう人こそが、舞台に多く立っています。その一般人感がぴったりな役って割と多いですよね。見た目は冴えないのに歌い出すと超人なのもギャップですよね。
黒人さんの演じるナイスリーナイスリージョンソン、キャラが立っていて本作に欠かせない1ピースでした。黒人さんの歌声やオーラやキャラって言語化難しいですが確実に白人さんとは違くて、それらを有効にミックスできるロンドンの舞台は素敵だなと思います。

終演後のキャストさんとのダンスタイム💃


最後に、音楽の魅力。
レミゼ感あり、ディズニークラシック感あり、Newsies感あり。しっとりデュエットも、女性同士デュエットも、みんなでわいわい曲もあります。贅沢。
1曲1曲が魅力的で耳に残るメロディーでありつつも、ストーリーラインに沿っており浮かない。吹奏楽の音が印象的で、生オケの価値が高い。

総じて

『Guys & Dolls』を、この immersive 演出で観れたことに価値を感じます。
この演出がもっと他の作品にも適応されますように。
この演出ベースのオリジナル作品がもっと誕生しますように。
舞台の可能性は無限大ですね。だから好きです。


※見出し画像は『Bridge Theatre Guys & Dolls』公式HPより


作品情報

Date: 25 April 2023 7:30 PM
Venue: Bridge Theatre
Cast:
  Sky - Andrew Richardson
  Sarah - Celinde Schoenmaker
  Nathan - Daniel Mays
  Adelaide - Marisha Wallace
  Nicely-nicely Johnson - Cedric Neal
Creatives:
  Directed by Nicholas Hytner
  Music & Lyrics by Frank Loesser
  Book Written by Jo Swerling & Abe Burrows

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