一首評:藤原建一「2023年8月5日 日経歌壇」掲載歌
よく知っていたはずのものから新たな美を見つけ出すようなうた。
「絵の中の物音に耳を澄ましをり」と上の句まで読んだところでは、読み手の頭の中にはなんとなく、印象的な音が聴こえてきそうな古今東西の絵画が浮かぶはずだ。
例えば、ルノワールの『ピアノを弾く二人の少女』。例えば、ブリューゲルの『雪中の狩人』。例えば、葛飾北斎の『富嶽三十六景 神奈川沖浪裏』……
しかし、続く下の句で出てくる絵画の名前、フェルメール『牛乳を注ぐ女』に読み手は少し驚く。牛乳を注いでいる様子は確かに記憶