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感想 悪い夏  染井為人 生活保護とは何なのか。それを問いかけてくる問題作。ラストのドタバタこそが、この国の縮図。


これを読んで感じたのは、声の大きな者だけが得をするという日本社会の闇みたいなものだった。
黙しているとスルーされる。
その言葉に正義がなくとも大声を張り上げたり徒党を組んだりすると、それが正当化される。

そこには真偽のほどはあまり関係ない。
悪は、見つからなくばスルーされるし
たとえ見つかったとしても、権力者なら、あまりダメージを受けない。

本書は生活保護の話しです。

不正受給者がやたらと出てくる。
それに加担する悪徳医師。
やくざモドキの男が悪知恵を授けてピンハネする。
不正受給者を脅して、キックバックと性的な奉仕を強要する受給者。
その担当者を脅迫し、不正受給を集団で認可させピンハネしようというヤクザ。
覚せい剤、女を使った脅し。

悪知恵が働く声の大きな人間だけが得をする。
逆に、本当に貧困し自殺まで追い込まれる人には、働け、努力してくださいと、追い詰めて、決して認可しない。彼女と子が心中して、それで初めて主人公は気づく。いや、その罪悪感は通常の人間の感じるソレとは比較にならないようなものだと思う。それよりも自分のことで精いっぱいなのだ。

正義とは何なのか。
生活保護とは何なのか。

不正受給の話しは良く聞く。
まともに税金を払っているこっちがあほらしくなる話しだ。
そんなことで、この国はいいのかと思うのだが、死と生の間にいる弱者が、この世界には存在しているのも確かだ。その人たちに救いの手を差し伸べないのは違う。

不正はなくならないと、主人公の上司は言う。
職員の葛藤もわかる。
しかし、不正はなくならず、それに群がるダニも無数にいる。

僕には、こいつらは白蟻に見えてならない。
気がつくと、建物自体を弱体化させているのである。

不正受給の話しをしている若い女二人に、年寄りの男が言った綺麗事が好きだ。

君たちの両手には時間がある。だが、無限ではない。



つまり、不正受給などしていても、あなたたちにとって、本当の意味ではプラスにはならないんだよと言いたいのだ。その場しのぎにすぎないのだ。

それよりも現実と立ち向かうべきなのだ。
この言葉は、スルーされ、彼女は、後に社会福祉の人を誘惑し薬中毒にし、闇堕ちさせるのだが
たった50万か100万の金のために、善人を自分を愛してくれている人を破滅させるのは、何かおかしいとは思わないのか。

その思考態度は、その場しのぎなのである。
不正受給と何ら変わりない。

このエンタメ小説は、そのラストのドタバタに魅力を感じる。
悪人が、あの部屋の集結し殺し合いになるのだ。

この吉本新喜劇風なラストのドタバタが興味深い。



2024 4 17



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