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感想 沈みかけの船より愛をこめて  乙一  乙一さんらしくない作品を集めた短編集。いがいと面白い。

好きなホラー作家を5人言えと言われたら、多分、僕は、乙一さんの名をあげると思う。
本作は、乙一さんの短編集です。

乙一さんは、色んなペンネームを使い作品を発表しています。

乙一、中田永一、 山白朝子、安達寛高

中田永一の名前で出だした『百瀬、こっちを向いて』 『くちびるに歌を』 はかなりの秀作です。

収録作品は11作品。
制約のある状態で書かれたものもあるので駄作も含まれていました。

ようするに色んな媒体に出した作品を集めたものです。
最新作も入っています。

「小説トリッパー」2022年春季号に掲載予定の最新作も、早くも収録。
表紙イラストには、今年1月に急逝された人気イラストレーター・もの久保氏の作品を起用!

いつもの乙一さんとは、ちょっと違う作品群というわけです。
地球に磔にされた男は、タイムトラベルでありSF。
蟹食丸は、鬼と末期がんの人間の友情を描いた作品です。
人面瘡と宿主の二人で猫殺しの犯人を見つけ出すミステリーもありました。
いつもの乙一さんとは、ちょっと違ったラインナップでした。

カー・オブ・ザ・ゴッドはアマゾンで発表した作品なので再読でしたが
これはゾンビもののコメディタッチ

僕が一番好きな作品は、5分間の永遠。
この作品は子供向けに書かれたものでした。

5分500円で何でも言うことを聞くバイトを友だちにする。
嘘の友達になります。
騙すのは彼の母親。
最後の方で母親が末期がんとわかる。
そこから二人の友情に繋がるらしき物語。ちよっとした感動すら覚えます。

一番の異色作品は、パン買ってこいです。
これはパシリを描いた物語。
不良にパシリにされる男ですが、やっているうちに購買部までの距離の走りが他の人よりも格段に早くなったことを自覚します。
先生や他の生徒は、そんな彼を被害者と見て、先生が介入しパシリはなくなるが
彼はパシリが楽しい。
何せ、このパシリに関しては他の誰にも負けないという自負があるからです。
自分の優位性のあることに対して人は、それを続けたいと思うところがあり
そういう感情を描いた作品なんだろうが、パシリをというかイジメを肯定する作品なので
どうして、これを最初に雑誌に掲載したのか、OKが出たのか不思議に思うのです。

僕は、これはアウトに感じました。
解説には、こうあります。

スポーツ雑誌用に「走る」をテーマに小説を依頼され、不良から使い走りをさせられる主人公を描いた話し。・・・社会的に不適合としてボツになる可能性もあったが、無事に掲載されたらしい。


イジメ肯定はヤバいが、モチーフが面白いのでOKという感じでしようか。
ホラーの乙一さんが、こんなの書いているというだけでびっくりです。



2022 5 31


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