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故郷の景色

お墓参りをすませると眺めるこの景色を、いつまでも忘れずにいたいと想った。

都会では見えない雲模様。キャンバスのような空に散りばめられているように自由に彩る雲たち。夏がよく似合う、私の住む町。

大人になるまで気づけなかったことがたくさんあった。閉鎖的で刺激的なものなんてなくて。とにかくこの小さな町を出たかった。遠く、どこか遠くに行きたいと願っていたんだ。私のいるべき場所じゃないなんて。かっこつけて飛び出したのはいくつの時だった?

蝉の鳴き声が響き渡る。空は広い。さえぎるものもない、ただ寛大な空は昼も夜も、見上げるたびに私を勇気づけた。重なる山はいつも包み込むように佇み、命の源を運ぶ大きな川は私に泳ぎ方を教えてくれた先生だった。匂い、風の温度、木々の木漏れ日、流れる時間。全てが今の私の一部となって育まれていった。

好きなことができないと決めつけて飛び出したまま、私は勝手に大人になった気分でいた。本当に合う人とは出会えないと嘆き振り返りもしなかった日々。好きな物をみつけた場所だったのに。視野が狭かったのは私だよ。大人になり見渡してみれば、ほら、あの人もあの子もやりたいことやってる。この場所で、背伸びもせず、身の丈を知り、逆らうことなく。気づけなかったのは私だよ。

いつだって環境のせいにするのが簡単だったあの頃。それに気づいて初めて大人になったと知る自分が少しおかしかった。

帰る場所があることの大事さはきっと歳を重ねれば重ねるほど痛感する。優しくて、変わらなくて、無条件に私を受け入れてくれる。

「いつでも帰っておいで。」

そう語りかけてくる忘れたくない景色。そんな景色の中で、偉大な自然と共に淡々と知恵を持ち生きていく家族、友人、そして人々を愛おしく想う。

また、帰るね。
いつも、ありがとう。

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