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コオロギ大量発生事件

メルボルンに引っ越して来て1ヶ月少し経ったある夏の夜のこと。帰宅した恋人に「道にコオロギが大量発生している」と興奮気味に報告された。

彼によると、バスから降りたら道にコオロギの大行列ができていたらしい。

急に目の前でコオロギが飛び跳ねたので、悲鳴を上げて同じく飛び跳ねながら帰って来たのだと実演してくれた。

お風呂上がりだった私は「え、そんなことが」と爆笑したのだけど

彼に「これは絶対見た方がいい、見せたい、どういうことか確かめてほしい」とモーレツに誘われ

Tシャツにパジャマズボン姿で道にコオロギを観察しに行くことになった。

彼の話は本当だった。

確かに道にはコオロギがこれでもかというくらい大集合していた。

近所に絨毯屋さんがあって、ショーウィンドウにトルコ絨毯がディスプレイされているのだけど

もはや柄ですか?

っていうくらいコオロギがいるではないか。

一体どこから侵入したんだろう。

屋外はコオロギのお祭り騒ぎ。

普段草むらでキレイ目な合唱をしてそうな虫というイメージだっただけに、私は衝撃を受けた。

例えるならば、スイミーのコオロギ版だ。

レオレオニーの魚のイラストなら可愛いが、コオロギバージョン(リアル)は正直きつい。

しかも見た目が黒いからGに見えないこともない。

彼は「ね!言ったでしょ!」と言わんばかりの興奮気味な顔をしており

キモ!キモ!と叫びつつも、普通じゃありえない光景に少年のようにはしゃいでいた。


そろそろ帰ろうかと引き返す頃には、もはや黒い物体が全てコオロギに見えてしまう現象が起こっていた。

彼の目の前に落ちていた黒いゴミをコオロギだと見間違えた私は

ヒッ!!!目の前にコオロギ!!!


と叫ぶと

彼は反射的にスーパーマリオ並みの大ジャンプをキメて

私たちは大爆笑をしながら部屋に戻った。


南半球の夏の思い出。

その夜以来、コオロギはパタリと姿を消した。

いったい何だったのだろう。

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