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寝取られた報復とその代償 第2話

大学時代が暗くつまらないものになってしまったことは、初めての恋人だった雄介に裏切られたこと、雄介の浮気相手が親友の沙也であったこと、というより、このことがきっかけで、人間不信に陥ってしまい、人に対して積極的に会話することが出来なくなってしまったことでした。
それでも時間が経つにつれ、浮気されたこと自体は自分の中で風化していきました。しかし、周りに心を開くということが苦手になってしまい、親密になる手前で心が強烈にブレーキをかけてしまうようになっていました。妹に話をしたら、それがトラウマと言う奴らしく、嫌な思い出の嫌な部分が学習経験として記憶に焼き付けられ、同じような経験を本能的に回避しようと心や体が反応してしまうとのことでした。それでも、社会に出ればそうも言ってられない場面が多くあり、そのトラウマを押し隠すようにして毎日を過ごしていました。

調剤薬剤師としてドラッグストアで勤務していますが、ある日のこと、店長候補の人物が新たに着任してきました。誰あろう、雄介でした。面影はあのころと変わらず、髪型も同じ…… 接点が一切なくなったので、その動向は全く分からず、まさか同じ会社に入っているとは思いもよりませんでした。雄介は私のことには気づいていないようです。私の名前は自分で言うのもなんですがかなり平凡と言うか凡庸と言うか、どこにでも見かける名前です。髪型も付き合っていた頃に比べてかなり短く、わざわざ太めのフレームの黒縁メガネをかけ、何て言うか、男が寄り付かないような格好を意図的にやっていました。朝礼の時に雄介が着任のあいさつをした時、目と目が合ったけど、あの男は少し微笑んだだけでやはり気づいてはいないようでした。近日中に業者を入れて棚卸をするため、夜の営業は休みになります。そこで雄介の歓迎会をすることになりました。

居酒屋に行くと、すでに副店長と雄介、他の社員とパートが飲み始めていました。私はたまたま雄介の隣に座る羽目になりました。雄介は相変わらずお酒は強くはなく、程なくして酔っぱらってました。すると、雄介は私に話しかけてきました。
「あの、もしかしてどこかで会ってませんかね? 俺と」
「相変わらずお酒弱いんだね。その薬指の指輪は沙也との指輪かしら」
「やっぱり…… 陽子?」
髪型も雰囲気も変わったせいか、平凡な苗字のせいで全く気が付かなかったようでした。やはり沙也と結婚したとのことでした。それも在学中、出来ちゃった結婚だそうです。二人とも大学を中退し結婚、雄介はバイトしていたこの会社に頼み込んで社員になったそうです。別に聞きたくもない話なのに、私の隣でぺらぺらと雄介は身の上話を続けます。座敷の畳の上にあった私の手の指先が触れ合った時、雄介は私の手をぎゅっと握ってきました。もしかしたらあの日、モーションをかけたのは沙也ではなく雄介だったのかもしれない。私は雄介の裏切りにショックを受けていたのもそうですが、沙也の方から誘惑してきたものだと決めつけていました。

この時、私はあることを思いつきました。
雄介を今度は沙也から奪ってやろう。私が受けた屈辱と悲しみを、沙也にも与えてやろう。そう決意すると、雄介の耳元でささやきました。
「この後、二人で少し飲みに行かない?」
「終電までなら」
雄介はあっさり乗ってきました。
歓迎会が終わった後、駅前のBarで飲みなおしました。私はトイレに行って前におろしていた前髪を整え、化粧を直し、伊達メガネを外しました。席に戻ると雄介は驚いたような顔で私を見つめてきました。
「驚いた。大学時代の陽子のまんまだ…… 陽子可愛いんだから、いつもきちんとメイクしたほうがい言うよ」
そう言いながらまた手を繋いできました。私は雄介にしなだれかかって、しれっと口から出まかせを言いました。
「雄介の前でしか、本気の自分を見せたくなかったから……」
「今夜、一緒に過ごすっか」
雄介はすぐ乗ってきました。沙也に「棚卸でトラブルがあって店に泊まり込みになる」と?をつき、雄介は私の手を引いてラブホテルへと向かいました。ホテルでは沙也に対する不満ばかり口から出てきます。
「育児にばかり夢中になって俺のことを相手にしてくれない」
「子供の夜泣きがひどくていつも睡眠不足だ」
「子供が生まれてからと言うものセックスレスなんだ」
自分のことしか考えていない、つくづく見下げ果てた男。雄介の本当の姿を見たような気がしました。それでも復讐のため、私は雄介に体を開きました。

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