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寝取られた報復とその代償 最終話

あの沙也との再会の日の夕方あたりから、狂ったように沙也からメッセージが届き始めました。
「卑怯者。あんたってサイテー!」
「人の家庭を壊して楽しいの? クズ女」
「一生恨むから」
こんな恨み言が延々届くようになりました。私はそれを見て良心の呵責に苛まれたかと言うとそんなことは全くなく、ざまあみろ、と言う気持ちしかわきませんでした。仕事先でも「佐藤さん、何か急に明るくなった感じだよね」「佐藤さん、最近少しテンション高いけど、恋でもしたの?」などと言われるくらい、私は憑き物が取れたような気分で仕事に勤しんでいました。

雄介はと言うと、会社に育児休暇と言う名目で長期の休暇を申請したようです。私は空々しく心配するふりをして、店長に、雄介がどうしたのか尋ねました。
「奥さんが体調を壊したみたいでね、しばらく彼が子育ての面倒を見ないといけないらしいんだよ」
「ええ?! ホントですか? 大変ですねぇ」
私は内心笑いがこらえられませんでした。私の復讐劇は想像以上のダメージを二人に与えることが出来ました。そしてその日の退勤時に、雄介から連絡が入りました。

二人で会いたい。この後、喫茶○○で待ってるから来て欲しい。

一瞬私は迷いましたが、まあ、最後に恨み言の一つでも雄介に言ってやろうという気持ちになり喫茶店に向かいました。席には、頬がすっかりやせこけ、見るも無残な雰囲気の雄介が座っていました。雄介は、まず私に詫びてきました。そしてあの日、沙也と関係を持ってしまったことから、その後の沙也の強引なアプローチに負け、関係を続け、子供が出来、沙也の親から叱責され、責任を取る形で入籍し、学校も中退し就職したこと、これまでの顛末をつらつらと話し始めました。私は、悪いのはあくまで自分を誘ってきた沙也だ、と言う雄介の言い分に、腹が立ちました。
「あんたってさ、全部人のせいなわけ? 相手が誘惑してこようが、自分に守るべき人がいるなら突っぱねるのが普通じゃない。相手の誘惑に発情して見境なくセックスしたのは自分じゃないの? 沙也もかわいそうね」
雄介は何も反論できず、しばらく俯いていました。
しかし、意を決したような顔をして、私に言いました。
「俺が身勝手なのはわかってる。もう君とも今日限り会わない。手切れ金が欲しいなら渡すよ。その代わり、もう俺たち夫婦に関わらないで欲しいんだ」
「ずいぶん勝手な言い草ね」
「沙也が、自殺未遂したんだ」
自殺未遂と言う言葉を聞いて、さすがの私もちょっと驚きました。
沙也のメッセージは日増しに支離滅裂なものになっていました。初めは私を叱責したり罵倒するものばかりでしたが、だんだん自分を責める内容になっていきました。私は一切返信していませんでしたが、そのことが逆に堪えたようでした。昨日、朝、睡眠薬を飲み干した沙也が発見され、病院に担ぎ込まれたそうです。発見が早く、命を落とすというところまではいかなかったようですが、心身の消耗が激しく、そのまま入院。店長の説明と話がつながりました。
「沙也から全部聞かされた。復讐なんだろ? 俺たちへの。もう勘弁してくれ。俺たちの完全敗北、全面降伏だよ。だから、金も払うから沙也にちょっかい出すのはやめて欲しいんだ。お金と沙也の自殺未遂で、君の復讐劇は終わりにしてもらいたい。子供から、母親を奪わないで欲しいんだ、頼む……」
完膚なきまで、私は二人をやり込めることに成功しました。沙也が生きようが死のうが今の私には関係ありません。ですが、子供から母親を奪う、という言葉が私の復讐心を思いとどまらせました。私も実は母子家庭で、片親の苦労も寂しさもよく知っていました。

結局、雄介は翌日二百万円振り込んできました。私は入金を確認した後、雄介に「これから二人の連絡先も画像も消去する」と最後のメッセージを送り、約束通り連絡先をスマホから消しました。

程なくして、雄介はそのまま退職しました。店長の話では、沙也の療養のため、沙也の実家で暮らすため、転職を余儀なくされた、と言う話でした。

私は少しだけ後味の悪さを感じつつ、もらったお金で司法書士の資格を取ろうと、勉強を始めました。今は資格も取得できたので私も退職し、先輩の司法書士の事務所で働いています。

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