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【取材記事】介護と医療の隔たりをなくす 人手不足の介護現場を救うドクターメイトの挑戦

ドクターメイト株式会社(以下、ドクターメイト )は、介護施設に特化したオンラインでの「医療相談」と「夜間オンコール代行™」を組み合わせた24時間医療対応サービスを提供するスタートアップ企業です。介護施設の高齢者の症状についてチャットや写真、動画を送って医師から手軽にアドバイスを受けられる「日中相談サービス」、介護施設の看護師に代わって夜間のオンコール対応を行う「夜間オンコール代行™サービス」を手がけ、介護現場が抱える医療課題に取り組んでいます。今回は、現役医師でもある代表の青柳さんに創業経緯やサービスに込めた想い、さらには内閣府 地方創生SDGs官民連携取組事例の優良事例として選定された福岡県北九州市との共創プロジェクトについてもお話を伺いました。

【お話を伺った方】

ドクターメイト株式会社 代表取締役医師 青柳直樹(あおやぎ・なおき)さん
千葉大学医学部卒業後、千葉市内の病院で皮膚科医として臨床診察に従事。介護施設から受け入れた患者を診察する中で、介護施設によって、ケアの対応に大きくムラがある課題を見つける。課題解決による「持続可能な介護」のため、2017年12月にドクターメイト株式会社を設立。翌2018年8月には、介護施設のスタッフと医療従事者専用のコミュニケーションツール「ドクターメイト」を開始する。


■医療ケアが行き届いていない介護現場の課題

日中は「チャット」、夜間は「電話」で24時間365日、専門の医療チームが介護施設の医療ケアをサポートする

mySDG編集部:創業のきっかけを教えてください。

青柳さん:大学卒業後、千葉の病院で研修医をしていた頃の体験がベースにあります。当時、勤務していた病院では介護施設から来られる患者が多く、診察をする中で、「どうしてここまで悪化するまで来なかったのだろう?」と思うほど重症化してから受診するケースと、逆に「なぜこれくらいの軽い症状で病院に?」というケースが非常に多く、疑問を感じていました。一方で、退院した患者さんが介護施設に戻って数日後に悪化し、再び病院に戻ってくるケースも少なくありませんでした。

ほとんどの介護施設には医師や看護師がついているのに、なぜ利用者の健康状況の把握にムラが出るのか。そんな疑問が蓄積していく中で、実際に介護施設を訪問して、現場の声を聞いてみることにしたんです。すると想像以上に医療と介護との連携が十分にとれていないことがわかりました。確かに医師と看護師との連携はあるけれど、医師が施設に来るのは週に数日程度。介護施設の職員も医療的なことを相談できず、非常に困っている状況でした。

病院内だけの治療だけでは根本的な解決にはならないのだと痛感し、あらためて医療と介護の連携がいかに重要かを強く実感しました。その仕組みづくりとして、デジタルの力を使って介護施設から医療へのアクセスを良くすればこの課題を解決できるのではないか、そう考えたことが起業のきっかけです。

mySDG編集部:医療現場での切実な体験がドクターメイトの立ち上げにつながったということですね。現状、介護現場における人手不足の問題は深刻です。厳しい労働環境にある介護施設の職員にとって当サービスは働きやすさ、ひいては働きがいにもつながるように感じます。そういった課題をすくい取る目的もあったのでしょうか?

青柳さん:はい、まさにおっしゃる通りです。現在の介護現場では人材不足に加え、医療的なケアをしなければいけないという課題がさらに積み上がっています。そのため介護スタッフの多くは、医療に対して強い不安を感じながら働いています。われわれが取り組むべきは介護スタッフの負担を軽減し、彼らが本来やるべきケアに向き合えるような環境づくりです。これらは結果として、持続可能な介護の実現にもつながると考えています。

■夜間オンコール代行が事業の風向きを変えた

アドバイス内容はレポートとしてまとめ、電子データやFAXで送付するためスタッフ間の共有も可能

mySDG編集部:御社のサービスはまさにありそうでなかった、医療と介護の分野にあらたな風を吹き込み新しいサービスだと思います。介護施設への導入プロセスにおいては、課題や困難はあったのでしょうか?

青柳さん:介護施設への導入には正直、とても苦労しました。サービス開始当初は、「日中医療相談サービス」のみを提供していたのですが、現場の職員からは好評を得ても、介護施設の経営者からは予算やコストの面からなかなか理解が得られず、難しさを感じていました。

全国42都道府県630以上の施設に導入された「夜間オンコール代行™サービス」はオンコール受付数が20,000件を突破 (2023年1月付)

mySDG編集部:風向きが変わったきっかけは何だったのでしょうか?

青柳さん:「夜間オンコール代行™サービス」を提供したことです。介護施設では日中、看護師が常駐して医療行為を担当します。しかし看護師は、夜間に医療的なトラブルが起き、施設の職員から電話があった場合には指示を出したり、現場にかけつけたりする必要があります。こうした勤務外の緊急対応を「オンコール対応」と呼びます。看護師にとっては、いつ電話がかかってくるかわからないため、夜間帯でも携帯電話を肌身離さず持ち、待機しなければなりません。

mySDG編集部:看護師の方々にとってはかなりの負担ですね。

青柳さん:まさにおっしゃる通りです。入職の見送りや離職に至る理由にもなってしまうため、夜間のオンコール対応には多くの経営者が課題を感じていました。その点、当社の「夜間オンコール代行™サービス」は、介護施設の看護師に代わり、当社の医療チームが365日、夜間オンコールを代行します。経営者のニーズに合致し、人材採用や離職率の改善に貢献したことが高く評価され、事業として伸びを見せるきっかけとなりました。

■内閣府・地方創生SDGs官民連携取組事例の優良事例に

福岡県北九州市 市長 北橋健治氏(左)とドクターメイト 代表取締役医師 青柳氏(右)

mySDG編集部:このたびは、福岡県北九州市と取り組んだ「夜間オンコール代行™サービス」の実証実験が内閣府 地方創生SDGs官民連携取組事例の優良事例として選定されたそうですね。おめでとうございます。どういった経緯から福岡県北九州市との官民共創プロジェクトが立ち上がったのでしょうか?

青柳さん:北九州市は国の介護特区ということもあり、介護ロボットを使った現場の効率化をいち早く進めた地域でもあります。介護ロボットを使うことで業務の効率化に成功し、人手が少なくても効率的にケアができる体制作りが整ったとされています。しかしながら、現場の人数が減ったことで、特に一人で夜勤を行う場合には、「なにかあったらどうしよう」と、職員の不安が非常に強くなってしまったとのことです。そこでわれわれのサービスを提供することで、心理的な負担の軽減と現場の効率化を進められるのではないかと考え、実証実験を行いました。

mySDG編集部:今回はどういった点が評価されたとお考えですか?

青柳さん:今回の実証実験では、北九州市内の特別養護⽼⼈ホーム17施設に「夜間オンコール代行™サービス」を導入し、実証前・実証期間中・実証後の計3回にわたってアンケートを実施しました。アンケート内容も、経営層やオンコール対応者である看護師、夜勤を担当する介護スタッフといった属性ごとにアンケート項目を分けて、非常に細かくアンケート調査 を行いました。

実証実験後のアンケート調査では、回答者95名のうち76.8%の方から「有効」との回答を得られ、一定数の成果を上げられました。今回は官民連携での持続可能な介護の仕組みづくりという点でも評価いただき、受賞につながったと感じています。

mySDG編集部:最終アンケートでは、集計対象者64名の夜勤スタッフのうち、約6割以上が夜間オンコールの負担や不安が減少したと回答し、当事者からも確かな評価を得ている印象です。

青柳さん:ありがとうございます。実はもう1点、受賞時の評価ポイントとなったのが、今回ご協力いただいた17施設が、他の施設と比べて救急搬送数が少なかったという実績が出ていたことです。その理由として、われわれの「夜間オンコール代行™サービス」によって緊急性が高いか否かの判断が適切にできている点、さらに消防本部より救急搬送時に提出するレポートが非常にわかりやすいという声が届いていたこともあり、高く評価いただきました。今回の実証実験を成果の一つとして、今後、現場の効率化と介護職員の心理的な負担の軽減を叶える、持続可能な介護モデル構築の可能性を感じています。

■目指すは介護現場の課題解決をかなえるプラットフォーム

mySDG編集部:今後の展望を教えてください。

青柳さん:介護現場での医療課題に対して、「ドクターメイトに相談すれば問題を解決してくれる」という頼れるプラットフォームを目指していきたいです。そして、われわれのサービスが日本全国に普及する体制を整えることです。サービスが全国に浸透すれば、重症化の予防や無駄な医療費の削減、介護施設で働く方々の不安軽減などの課題解決が大きく前進すると考えています。

mySDG編集部:国としても、高齢化に伴う医療費増加の課題を抱えています。その点においても、御社のサービスは大きく貢献できることを期待しています。

青柳さん:現状、日本の医療費や介護費の8割は65歳以上の高齢者が使用しています。冒頭に申し上げた通り、本来防げたはずの入院や受診が非常に多いため、そこを適正化できれば、医療費や介護費の削減にインパクトを与えられると思います。

これまでわれわれは、介護現場において医療ケアの質を高めるための外部サポートに徹してきました。しかし最近では中に入って診察を行なってほしいというニーズも高まっています。そのため、現状のサポートにとどまらず、診察行為までをワンストップで支援できる事業展開を検討しています。今後は社会のインフラ的サービスとなって、日本全国どこで暮らしていても気軽に医療にアクセスできる世界の実現を目指していきます。

mySDG編集部:世界に類を見ない超高齢化社会に突入している日本において、御社のサービスは今後必要不可欠な存在です。今後の新たな展開にも期待しております。本日は貴重なお話をありがとうございました。


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