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料理について

高校を卒業と同時に一人暮らしを始めたのにもかかわらず、料理には全く興味がなかった。

自分で作るには店以上のものを作れる気はしないし、料理をするとなると少なからず時間を必要とする。
そして一人で食事をするのが嫌だった。

20歳の頃、一つ年上の好きな子ができた。

その子に電話をしたくて、でもいきなり電話するのもなんだかなぁと思った。
電話をするのには正当な理由が必要だ。

僕は思いついた。

「カレーを作るからカレーの作り方教えて!」

これほど、真っ当で気の利いた理由はないのではないのか。

特に料理がしたかったわけでもなく、カレーを食べたかったわけでもないが、一つ年下の男の子が普段しない料理に励む様はなんとも萌え度が高いのではないか。
そして、カレーというところがポイントである。あまりにも難しい料理では相手の女の子に恥をかかせるし、目玉焼きの作り方を教えてなんて言えばこちらの常識が疑われる。

カレーは家庭の味を代表する料理ということもあり、年下男子がする料理としては大変健気である。

結果、その子とは毎日のように電話をする仲になり、付き合うことができたのだ。

皆さんも初めての電話に迷ったら一度は使ってみてもいいと思う。きっとうまくいく。

料理の話に戻す。

一瞬目覚めたかに見えたお料理男子は当然ながら続くわけもなく、学生時代からつい最近まで外食がほとんどだった。

そういうわけで行き着いたのはコンビニ弁当だったり、近所のラーメン屋、友人を誘っての飲み。

好きなものを好きなだけ食べる。それはそれで素敵なことだが、もちろんのこと食費がかさむから最終的にはスーパーの惣菜に辿り着いた。

このスーパーの惣菜が美味しくない。

いや、本当のところ美味しいのだけれど、毎度毎度揚げ物ときたらさすがに飽きる。

惣菜のメインは唐揚げ、天ぷら、焼きそば、粉物と味の濃いものばかりだし、健康上良しとは言えない。

そして食費を抑えるため値引き品を狙う。その健康上良しとされない食材の何円引きかの惣菜を探すのは、これまた精神衛生上もよくない。

もちろん、その「おつとめ品」に救われている人の存在を無下に扱うわけじゃないが、僕はそんな食生活に飽き飽きしていた。

僕は食費を抑えるため、もっと別の方法をとった。

それは単純に食べる量を減らすことだ。

いつも同じようなものを食べて、安くてそこそこ腹の膨れるものを買う。

一日、二日であれば構わないがそれが毎日となると、免疫力が低下する。

そして体調を壊す。

僕はとても風邪をひきやすかった。

風邪をひくと結果的に多くの金銭を失う。

治療費であったり、働けない分の給料、そして時間的なコストもかかる。

免疫力の低下は体調面だけではなく、精神面にも影響する。

なぜか分からない、言いようのない不安がまとわりついていたり、うまく寝れなかった原因の一つに食生活が影響していたかもしれない。

結局、自分の体を作っているのは何を摂取していたかで決まる。

牛乳を摂ればカルシウムを補えるし、大豆を摂取すればセロトニンを分泌する。

ただそれだけのことなんだと思う。

食生活が整えば健康になるし、セロトニンにしろなんにしろメンタル的にも安定する。

肉食を食べればガツガツした肉食の性格に、甘いものを好んで食べる人は優しい性格になると聞いたことがある。

本当かどうかは分からないが、あながちそれも嘘ではないと思う。それくらい「食」が人体に与える影響は大きい。

野田氏ではないが、自分の体を作るのはきっとパパでも多分ママでもない。

日毎、死んで生まれてくる細胞を作るのは「食」であり、その「食」こそが血となり肉となり心を作る。

そんな思いが相まって料理をすることになった。

この料理というやつ、その気になれば案外楽しいのである。

誰かに強制的にさせられることは何をしても嫌で仕方がないが、自分でその重要性を理解し、気分が乗れば楽しいとまで思える。

何よりも新しい発見として、料理がストレス解消になるという人の気持ちが分かった。

昔、友人のお母さんがストレス解消のため料理を多く作ることがあるため何度かお裾分けをしてもらった。
その時はその心理状態が理解できなかったが、自分がその立場になると腑に落ちる。

目的のために、それに見合った食材を切り調理する。その食材が活きるように調味料を加えて味を整える。
元々バラバラのものを組み立てていく感覚はプラモデルを作っているようでもある。
そしていかに効率よく作業を進めるために優先順位を決め、無駄のない方法を探るのは頭の体操にもなる。

そして、その調理の合間を見つけてすかさずビールを胃に流し込む。

これがたまらなくうまい。

ビール片手に料理。これほど健康的な趣味はないのではないかと思う。

また一つ思い出す。

初めての職場での初めての先輩。

その人はとても仕事ができて人間性も素晴らしい人だった。

週の終わりにはいつも飲みに連れて行ってもらい、インドを旅した話や、仕事についての考え方を教わった。
わずかな期間だったが僕の記憶には鮮明に残っている。

その先輩が休みの日にはいつもカレーを作りながらビールを飲み、カレーができる頃には腹一杯になるという話をしていた。
カレーより先に出来上がったという話をしたいわけじゃないがなんとも平和な話である。

そんなことを思い出した。

思えば料理をしながらビールを食らうのは僕の中にその先輩の記憶が根付いているからかもしれない。
優しい人だがとても怖かった。でも良く面倒を見てくれた。

当時の先輩と同じような年齢になり、そんなことを思い出す料理のお話である。


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