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チビっていうな。

僕は身長が176cmある。決して低い方ではない。

小学校の時も朝礼では後ろの方だったし、(と言っても同級生は6人だったが)一般的にみても背の低い方ではなかった。しかし家族のいる場では僕が一番小さかった。


三人兄弟の末っ子で生まれた。物心ついた頃には両親と兄弟と祖父母の7人家族だった。末っ子である僕は当然ながら一番小さかった。

だから僕は家族の中ではチビと言われることがあった。これがひどく嫌だった。どう足掻いても大人の仲間入りはできないし、5歳以上離れた兄たちと遊ぶのには何をやっても敵わなかった。足手まといに思われている感も否めなかった。

兄弟だけで遊ぶ時ならまだいいのだが、これが兄たちと同年代の人と一緒に遊ぶ時となると僕はやはり置いてけぼりをくらう場面があった。ただ会話に参加できないだけでなく、実際に僕を置いてどこかに行かれたりすることもあった。これが本当に寂しかった。

兄と同年代の従兄弟たちと遊んでいる時に僕だけ置いて兄たちはどこかに遊びに行ったこともあった。父は僕が小さいからという理由で僕だけを釣りに連れて行かないこともあった。

多分、この体験は自分が思っているより根深いのかもしれない。というのも昨年、僕は幼少の記憶がプレイバックする出来事があった。


祖父が亡くなって、四十九日の日のことだ。

親戚一同で会食を交わしたのち、僕たち兄弟と両親は実家に戻った。昼間から日本酒を飲みまくったせいで僕は眠気に襲われ、横になったつもりが気づいたら爆睡していた。

2時間ほど経って目を覚ましたのだが、僕は「置いてかれた!」と瞬時に思ってしまった。僕だけを置いて兄たちと両親はどこかに飲みに行ったと錯覚したのだ。

実際のところはみんな家にいたのだが、きっと僕は幼少の頃に兄たちに置いてかれた日のことがプレイバックしたのだと思う。20年近く昔のことなのに同じような状況に直面したことで僕は一瞬胸がキュッとなった。

覚醒した僕は兄に「どこかに飲みに行ったかと思った」と伝えると「行かへんわ」と一笑していた。



僕も35歳だ。そんなに手間がかかる年齢でもない。


今となっては兄や両親の気持ちも分かる。5歳離れたチビっ子を連れていくと面倒も増えるし、世話も増える。気にかけずに楽しみたいときもあっただろう。決して悪気があったわけじゃないし、安全面を考えた上でもそれが正しかったのだろう。しかし、35歳となった僕は、もう昔みたいに足手まといになることはない。


でも僕はきっとまた置いてかれる。

順番で考えれば、この先両親が先に死んで、その次に長兄、次兄と続いて僕が命を終えるだろう。これが自然の摂理だし望む形だから仕方がない。




チビっていうな。


僕は幼い頃、何度も兄や両親に抗議した。
でもそうやって怒るたび彼らは微笑んでいた。


自分に子どもが生まれた今、彼らの気持ちが分かる気がする。

きっと最大限の愛情を持ってチビと呼んでいたのだ。
まだ人間にもなりきれない未完成な、ぬいぐるみとペットの間のような生き物を最大限に愛していてくれてたのだと思う。

2歳になる息子は、どうやら幼い頃の僕に似ているらしい。2歳の頃の記憶なんて当然あるわけないが、チビと呼びたくなる気持ちも分かる。まだ人間にもなりきれない未完成な、ぬいぐるみとペットの間のような生き物が2歳なのだ。

最大限の愛情を込めてチビと呼んでやりたいが、どうやら自分に似ているらしいので、あの日の自分を救うべくちゃんと名前で呼ぼうと思った。

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