高木菜那選手引退にあわせて 日本スポーツ史上屈指の名シーン2018年平昌五輪スピードスケート女子マススタートを振り返る

小よく大を制すという言葉もあり、小柄な日本人選手が大柄の外国人選手に勝利するシーンに痺れる方も多いだろう。
2018年平昌五輪スピードスケート女子マススタートの決勝もそういう試合だった。

1周400mのアイスリンクを計16周する競技だが、1対1の500mや1500mとは異なり、全選手が一斉にスタートする。4周ごとに順位でポイントが付与される。予選ではこのポイントが決勝進出決める重要なファクターとなるが、最終周のポイントが高く設定されているため、決勝でメダルを決めるのはゴール時の着順である。
また、マススタートでは通常のスピードスケートとは異なり、インコースのさらに内側の練習用レーン、通称「インのイン」も使われる。

序盤は探り合い、いいポジションを見つけて体力温存し、最後一気に抜く。相手選手との駆け引きや仲間の選手との協力プレイもあり、スリリングなレース展開が魅力の種目だ。
オリンピックでは2018年の平昌大会からの新種目で、日本からは高木菜那選手と佐藤綾乃選手が出場した。実力通りにいけば2人で決勝に行き、協力しながらレースできるはずだったが、準決勝で佐藤選手が転倒に巻き込まれ敗退。高木選手は勝ち上がったが、決勝では1人で戦うことになる。

さあどうなる……と思われたのがこの試合だ。gorin.jpに日本語実況付きの動画が残ってたのでそれを見よう。スタート後並んで滑っている映像から、海外の選手に比べ、高木選手はひときわ小さいことがわかる。

序盤中盤で高木選手は集団のやや後ろに位置し、オランダのイレーネ・スハウテン選手の後ろにピッタリとくっつく。そして、高木選手の後ろには韓国のキム・ボルム選手がくっついている。

スピードスケートはものすごい速度で走るため、風の抵抗を大きく受ける。先頭で独走するというのはなかなか難しく、誰かの後ろに付いて体力を温存していきたい。そういう意味では、スピードスケート大国オランダ代表のスハウテン選手の後ろに付けたのは大きい。しかし後ろのキム選手が気になる。実況・解説では「不気味」と表現していたが、まさしくそうだろう。
キム選手は元々ショートトラックをやっていて、スピードスケートに転向した選手なので駆け引きに強い。実際に世界距離別選手権でも優勝している実力者だ。

この隊形を維持し続け最終盤に入る。
最終周に差し掛かるところでスハウテン選手が先頭に躍り出る。高木選手、キム選手も付いていく。
(実況ではファンデルバイデン選手と言っているがスハウテン選手が正しい。スハウテン選手と同じくオランダユニフォームだがファンデルバイデン選手は黄色い腕章を付けている)

そして最終周、最後のカーブでスハウテン選手が膨らむ。そこを高木選手が突く! スピードは出しつつもキム選手に抜かされる隙間を作らない!

バックストレートを駆け抜け見事金メダル!

はぁ……すごすぎる……。

小柄な高木選手がその体格を逆に利用し世界の強豪を制する。感動した。

この映像には残ってないが、試合後のインタビューを受ける前に前髪を整えていたところも映っている。試合のカッコイイ様子とはギャップがあってそこも魅力的だ。


あれから4年。高木選手の引退会見が先日行われた。

言葉が染みるなぁ。
北京五輪は本当に……、叫んじゃった。パシュートもマススタートも。私からは何も言うことができない。

でも、高木菜那選手の姿はしっかりと心に残ってる。競技を終えたこれからの人生も輝いたものであることを1人のファンとして願っています。

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