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民事判例アラカルト

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ここでは民事法分野の目についた判例を紹介する。  ある事実関係のもとで、裁判所がどんな判断をしたのか、その判断について学説はどういった評価をしているかを可能な限り明らかにしたいと… もっと読む
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記事一覧

父親名義の普通預金等がその子に帰属するとされた事例

父親名義の普通預金等がその子に帰属するとされた事例

東京地判令和5.7.18金判1681号28頁

1.事案のあらまし Yは、平成7年12月に、B銀行α支店に、父親であるX名義の普通預金口座を開設した。届出住所はXの居住地であり、取引明細書もその場所に送付されていた。B銀行からA銀行への事業譲渡に伴い、この預金口座もA銀行α支店に移された。なお、Xは東京家裁に成年後見開始の審判の申立てをし、令和2年11月に確定している。
 本預金口座には、少なくと

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遺言執行者の権限-相続させる遺言・包括遺贈の遺言に関して

遺言執行者の権限-相続させる遺言・包括遺贈の遺言に関して

最二小判令和5.5.19民集77巻4号1007頁

1.事件のあらまし
 Aは、平成21年7月、①Aの一切の財産を、子Cに2分の1の割合で相続させるとともに、②Cの子Dに3分の1の割合で遺贈、③Aの孫Eに6分の1の割合で遺贈するとの公正証書遺言(以下、「本件遺言」という。)をした。Aの相続財産は、夫Bから子Zと共に各2分の1の割合で共同相続した本件土地である。
 Aは、平成23年2月に死亡し、その

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「肖像権」の侵害に関する判断基準は?

「肖像権」の侵害に関する判断基準は?

東京地判令5.12.11裁判所Web

1.事件のあらまし タレントXが、芸能活動に関し専属契約を締結していたYに対し、契約を解除する旨の解除通知書を送付し、その受領後である令和2年9月7日以降も、自社のホームページにおいて、Xの肖像写真等を削除せず、その掲載を続けていた。これは、本件契約解除の効力をめぐって別件訴訟が係属中であったためであり、別件訴訟の判決が令和5年4月18日に確定したことから、

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「職業的専門家」の依頼者以外の第三者に対する不法行為責任(司法書士の場合)

「職業的専門家」の依頼者以外の第三者に対する不法行為責任(司法書士の場合)

最二小判令和2.3.6民集74巻3号149頁

1.事件のあらまし(1) 事案の概要

 所有名義人Aの土地について、Aを売主・Bを買主とする「第1売買契約」、次いで、Bを売主・Xを買主とする「第2売買契約」、さらに、Xを売主・Cを買主とする「第3売買契約」が順次締結され、AからBへの所有権移転登記(以下「前件登記」という。)の申請(以下「前件申請」という。)、Bから中間省略登記の方法によるCへの

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マンション建築工事請負代金債権の違法侵害にあたる行為かどうかが問題になった事例

マンション建築工事請負代金債権の違法侵害にあたる行為かどうかが問題になった事例

最一小判令和5.10.23裁判所Web

1.事案および裁判の経緯 M社は、本件敷地にマンションを建築して分譲販売することを計画し、平成26年、本件敷地を合計6100万円で購入した上、平成27年6月、M社を注文者、X社を請負人として、本件敷地にマンションを建築する工事の請負契約を代金10億1500万円で締結した。
 X社は、M社から、請負代金について、平成29年2月15日までに遅延損害金を除いて合

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相続預金払戻請求にあたっての金融機関の対応とその結末

相続預金払戻請求にあたっての金融機関の対応とその結末

東京地判令和4.3.30金判1650号50頁

1.裁判の経緯 Bは、大韓民国の国籍を有し、従妹であるA(平成26年3月に死亡)名義で、Y1銀行・Y2銀行・Y3銀行に預貯金(本件預貯金1~8までの8口。預貯金4および5は現存しない。合計金額15,766千円)を有していた。Bは、平成25年3月に死亡し、Bの子X1・X2が、預金を相続したと主張して、Y1~3銀行に相続預金の払戻しを求めたが、Y1~3銀

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破産管財人の債務承認と時効の完成猶予の効力

破産管財人の債務承認と時効の完成猶予の効力

最三小決令和5・2・1民集77巻2号183頁、金法2219号71頁

1.事件の経緯 Y(信用金庫)は、Xが所有する土地・建物について本件根抵当権の設定を受け、Xに貸付けをしたが(本件根抵当権の被担保債権は、この貸付金債権である。)、Xは、平成26年5月、貸付金について期限の利益を喪失した。Xは、平成28年7月、破産手続開始決定を受け、A(弁護士)が破産管財人に選任された。Xが破産手続開始決定を受

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破産会社名義普通預金の別段預金への振替と相殺制限

破産会社名義普通預金の別段預金への振替と相殺制限

東京地判令和4.11.9金判1666号23頁

1.事件の経緯(1) A社(破産会社)の事業と金融機関取引

 A社はログハウスの建築請負事業を営んでいる。
 本事業では、A社は、顧客からの申込みを受けると、建築部材(キット)をB社から購入し、当該部材の組立作業等を下請業者に依頼していた。
 A社は、B社等の仕入先に対する支払いを、Y銀行を含む金融機関からの融資(当座貸越、手形貸付等)により調達す

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トランスジェンダー女性に対する職場の女性トイレの使用制限

トランスジェンダー女性に対する職場の女性トイレの使用制限

最三小判令和5.7.11裁判所Web

1.事案と裁判の顛末 経済産業省に勤務する国家公務員であるXは、生物学的な性別は男性であるが、幼少の頃からこれに強い違和感を抱いており、平成11年頃には性同一性障害である旨の医師の診断を受け、同20年頃から女性として私生活を送るようになった。また、Xは、平成22年3月頃までには、血液中における男性ホルモンの量が同年代の男性の基準値の下限を大きく下回っており、

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マイナンバー(個人番号)の削除を求めた事例

マイナンバー(個人番号)の削除を求めた事例

マイナンバー(個人番号)利用差止等請求事件
最一小判令和 5.3.9裁判所Web
https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=91846

1.裁判の経緯 Y(国)が「行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律」(いわゆる「マイナンバー法」。以下では、本判決の用語法に倣い、「番号利用法」と略称)に基づき特定個人情報(個

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「ひととき融資」は公序良俗違反

「ひととき融資」は公序良俗違反

東京簡判令和4.6.29金法2199号101頁

1.裁判の概要 令和3年12月、Y女は、カードの未払等があったので、ツィッターに、自分はお金に困っている旨を投稿、これを見たX男(医師)は、Yに対してダイレクトメッセージを送って融資を申し出た。
 XはYに対して、以下の条件で30万円を貸し渡し、Yはこれを受領した。
 ア 金利(利息)の定め 年0.001%
 イ 返済の方法と時期
   月2万円か

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年金等を原資とする預金債権の滞納処分による差押え

年金等を原資とする預金債権の滞納処分による差押え

東京高判令和4.10.26金判1665号12頁

1.裁判の概要(1) Xは、令和2年6月12日当時、Y(市)の市県民税の本税・延滞金の合計8万3000円を滞納(以下、「本件滞納税」)していた。Yは、Xの財産調査をしたところ、Xが日本年金機構の年金を受給しており、A銀行のX名義普通預金口座に振込入金していることが判明した。
(2) Yは、本件滞納税の時効を中断するため督促状を発送したところ、宛所に

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破産手続開始の申立てから1年以上前に行った弁済と偏頗行為否認

破産手続開始の申立てから1年以上前に行った弁済と偏頗行為否認

札幌地判令和3.7.15裁判所Web
https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail4?id=91283

1.裁判の概要 歯科医であるAは、北海道千歳市内の土地建物を購入し、サービス付き高齢者住宅の運営および介護事業を行うことを計画して、Y銀行から融資を受け、担保として、Aが所有する不動産に根抵当権を設定した。本件不動産は、高齢者向け施設として、Aが代

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不法行為に基づく損害賠償債務の遅延損害金の元本組入れ

不法行為に基づく損害賠償債務の遅延損害金の元本組入れ

最三小判令4・1・18民集76・1・1
https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=90853
笹本哲朗・法曹時報75巻2号439頁、北居功・民商法雑誌158巻6号1422頁、若林三奈・令和4年重要判例解説61頁、益井公司・リマークス66号38頁、大久保邦彦・判例評論769号2頁、原田昌和・ジュリ1574号91頁、加藤新太郎・NBL1223号

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