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【読書コラム】マジで? ナイチンゲール、めっちゃ強いじゃん! - 『超人ナイチンゲール』栗原康(著)

 在宅医療の研究をしている後輩から、いま、ナイチンゲールが熱いと教えてもらった。子どもの頃に読んだ伝記では白衣の天使というイメージだったけど、実際は偏見と戦いまかったカッコいい女性だったんだとか。

 そして、そのことを知るに至ったきっかけとして、『超人ナイチンゲール』という本をオススメされた。

 たしかに、ナイチンゲールの写真は黒い服を着ている。既存のイメージを打ち砕いてくれそうな雰囲気に満ち満ちている。しかも、ブレイディみかこさんが推薦しているとなったら、読まないわけにはいかなかった。

 見るからに固い本ではないとわかっていたけど、開いてみたら、想像以上に自由な書き方で笑ってしまった。なんと、著者の栗原さんは前書きで、別に自分はナイチンゲールに詳しかったわけではないと明かしているのだ。正直にもほどがある。なんでも、編集の白石正明さんに提案され、調べ始めたら「なんじゃこりゃ」の連続だったんだとか。

 つまり、この本は専門家がナイチンゲールの歴史をまとめたものではない。同時代に生きる作家がナイチンゲールの知られざる側面を再発見。リアルタイムに感動を実況中継しているダイナミックな一冊なのだ。

 そのため、普通、誰かの歴史を描いたものって退屈になりがちだけど、最初から最後までずっと面白い。というか、眠くなりそうな話になると栗原さんの個人的な見解がズバンッ、ズバンッ、大胆に差し込まれるので飽きがこない。

 なんとなく、予備校の授業っぽいのかな。あれ? 勉強って楽しいかも? そんなワクワクでいっぱいだから、気づけば、ページをめくる手が止まらなくなっていた。

 ただ、同時に、少しだけ不安にもなる。ナイチンゲールが物凄いお金持ちの家の娘で、神秘主義に目覚め、自分と他者の境目がなくなるほどの隣人愛に燃えていたらしいとわかったけれど、あまりに軽妙な書きっぷりなので、どこまで信じていいのか……。ぶっちゃけ、疑問に思わざるを得ない。

 そのため、わたしはいつもの癖でセカンドオピニオンを確認すべく、読書をしながら適宜ネット検索も行ったのだけれど、概ね、『超人ナイチンゲール』に書かれている内容の論文などがちゃんと見つかるので驚いた。

 ナイチンゲール、マジでカッコいい人っぽい!

 いや、それぐらい、わたしが知っていたナイチンゲール像と違っていたので、そう簡単には受けいれることができなかったのだ。

 では、どうして、ナイチンゲールは白衣の天使と化してしまったのか。当時、クリミア戦争が泥沼化し、新聞で負傷した兵士たちの待遇が悪いことが報じられ、政府の支持率が低下しまくっていたことが背景にあるらしい。

 戦争を続けるためには国民の支持が不可欠。ならば、起爆剤となる人物が必要だった。いわば、起死回生のジャンヌ・ダルクが必要で、その白羽の矢が当たったのがナイチンゲールだったんだとか。

 もちろん、だからって、ナイチンゲールは単なるお飾りだったわけではない。階級に関係なく、困った人たちを救いたいという気持ちから看護の必要性を感じていた。専門的に学んでもいた。でも、なかなか活躍する機会に恵まれず、悶々とする日々を過ごしていた。

 そんな中、ついにチャンスが訪れたので、理想の形ではなかったとしても、神輿として担がれる決意を固めたという。そういう風に手段と目的をしっかりわけて、やるべきことに専念しているあたりもグッとくる。

 で、戦地で見事に医療環境の改善に成功。賞賛が集まる中で、様々なコメントが寄せられた。詩が作られた。替え歌が大流行りした。

 特にロングフェローによる詩が巷で人気となった。

見よ! このつらい時間に
ランプを手にした婦人が
おぼろげな闇を通って
部屋から部屋へと過ぎゆくのがみえる
すると、至福の夢をみているかのように、ゆっくりと
患者は黙って向きを買え
彼女の影が落ちるとき
その影に口づけをする

ヒュー・スモール『ナイチンゲール 神話と真実』[新版]田中京子訳 川島みどり解説

 いわゆる「ランプをもった天使」というナイチンゲール像はこの詩によって作られたらしい。それが伝言ゲームで形を変えて、良妻賢母と思われるようになってしまったのだ。

 でも、実際のナイチンゲールは家庭に収まるような女じゃなかった。若い頃から社会を変えるために活動し、看護師として働いている間も大物政治家を相手に堂々と渡り歩いてきた。しかも、一生遊んで暮らせるだけの財産を持っているから、決して自分のためではない。すべては弱者を救うため。どう考えても凄過ぎる。

 しかし、そういうパワフルな人の常として、周囲の人間はけっこう苦労したらしい。こうと決めたら猪突猛進、頑固なナイチンゲールに困らされた人々のエピソードはこちらまで胸が痛くなる。

 特に、過労で倒れたナイチンゲールが余命幾ばくもないということで、限られた時間だし、仕方がないと全力サポートしたにもかかわらず、結局、全然死ななくて、周りの方が先に亡くなってしまったというのはあまりに辛い。

 なお、本人は90歳まで生きている。いやはや、生き急いでいるように見えて、やりたいことをやっているから、案外、長生きするんだよなぁ笑

 良くも悪くも、ナイチンゲールから学べることはまだまだたくさんありそうだ!




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