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【料理エッセイ】アンドレさんと梅ヶ丘で梅を見て、バッハの旋律を聴きながらあれこれ話して、美味しいものをたらふく食べたのだ

 ペペ・アンドレさんと梅ヶ丘で梅を見てきた。

梅ヶ丘のせたがや梅まつり

 アンドレさんは元祖日の丸軒という中級ユーラシア料理店のマスターで、わたしはこれまで様々な料理レシピを教わってきた。

 ちょうど季節ということで、梅を見に行きましょうとなった。会場は羽根木公園。何度か行ったことはあるけれど、この季節に伺ったのは初めてなので、爛漫と咲き誇る梅の花たちに心躍った。

 羽根木公園には梅の木が650本も植わっているらしい。種類は60種類もあり、見比べてみると、ひとつひとつ表情が違って愛らしい。

 その中でも囲いで仕切られ、いかにも他とは違った雰囲気の梅があった。品種の書かれたプレートを読むと、そこには「飛梅」の文字。そう、菅原道真の飛梅伝説の「飛梅」である。

 かつて、菅原道真は太宰府への左遷が決まったとき、自宅の庭で木々に向かって、こんな歌を詠んだという。

東風ふかば にほひをこせよ 梅の花
あるじなしとて 春なわすれそ

 それから、道真が去った後、桜の木は悲しみで枯れ果て、梅と松は主人を追って空を飛んだとか。でも、松は途中で力尽きて兵庫のあたりで不時着してしまう。結局、梅の木だけが太宰府に辿り着いたという。

 これが飛梅の由来で、すなわち太宰府名物なのだが、どうして東京で見ることができるのか。

 近くにあった石碑によると、寄贈してもらったらしく、なるほど、梅ヶ丘を名乗る土地だけあって、全国から梅が集まってくるらしい。

 せつがや梅まつりは3/3(日)まで開催中らしいのだが、やはり土日は人出も多く盛り上がる。出店や屋台も活気があって、購買意欲も刺激される。

 アンドレさんがお土産にりんごを買ってくれた。5個で400円。物価高の昨今、こんなにありがたい話はない。加えて、梅と紫蘇と塩だけで作った練り梅も買った。

 梅を見た後はアンドレさんのお宅に招いて頂き、自家製のカレーをご馳走になった。たっぷりの玉ねぎとトマトの旨味で、爽やか美味しい一品だった。

 それから、三、四時間おしゃべりをした。バッハのヴィオラ・ダ・ガンバ・ソナタのCDをBGMに流してくれた。ベートーヴェンだと音楽が主役になってしまうし、モーツァルトだとちょっと上品が過ぎるので、わたしたちの会話にはバッハがとても心地よい。

 ホックニー展がよかったとか、寺山修司の天才性はなんであったのかとか、二子山部屋のちゃんこ鍋動画が面白いとか、雑多にいろいろ話しまくった。

 飛梅を見たから、菅原道真について、わたしの思い出を披露した。高校三年生の冬、大学受験で合格すべく、菅原道真を祀っている湯島天神に行き、お賽銭に一万円を入れた。もはや神に頼むしか手がなかったのである。お陰様で結果は合格。ほんと、菅原道真には感謝しまくっている。

 他には、負けることの大切さについて考えたりもした。人間、最後には死ぬわけだから、普段から、負ける練習をしておいた方がいいんじゃないか、と。

 仮に、人生を飛行機のフライトと喩えるならば、最後は軟着陸で終わりたい。でも、それはきっとかなり難しいことである。着陸に慣れていなければ、不時着するか、墜落するかでTHE ENDを迎える可能性は大きい。

 もちろん、派手な終わりが好きな人もいるだろうから、一概にそれがベストとは言えないけれど、わたしたちはソフトランディングに憧れている。

 そのためには負けちゃダメだと肩肘張っているのではなく、常に、うまく負ける方法について考え、実践していくことが重要なのかも。

 アンドレさんが最近描いた絵を見せてくれた。どれも素敵な作品ばかり。個展を開く予定というから、みなさん、そのときはぜひぜひ遊びに来てね!

 最後の一枚は多摩川沿いの道、アンドレさんがよく通る場所らしい。赤い蝶々が飛んでいるのは魂が迷い込んできたからなのか。太陽の淡い光がとても優しい。

 そろそろ、お暇しますと言ったところ、冷凍庫からイカスミパスタのソースを取り出して、お土産に持たせてくれた。夕飯に食べてね、と言ってくれた。

 電車に乗って、駅前のスーパーで買い物をして、帰宅したときには午後7時を回っていた。とりあえず、今日の収穫物をテーブルに並べてみた。

 たまたま、スーパーでは豊洲市場フェアをやっていて、イサキが1匹400円で入手できた。3枚におろして、ソテーすることにした。きっと、ねり梅は淡白な魚と相性抜群。洋食っぽく仕上げてみた。

 炭水化物はアンドレさんがくれたイカスミパスタ。スミをたっぷり蓄えたコウイカを使っているから、黒さがたっぷり濃厚だった。

 デザートはりんごといきたいところだけど、わたし
は生のりんごを食べると喉の奥が痒くなってしまう。もったいないとはわかっているけど、焼きりんごにするしかない。

 そのことを伝えたら、アンドレさんが焼きリンゴのコツを教えてくれた。照りとコクを出すために、バターは必須とのこと。そこにシナモンをふりかけたら、うっとりするようなスイーツができあがった。

 アンドレさんと綺麗な梅を見て、楽しいおしゃべりをして、美味しいご飯を食べて、幸せな一日だった。こういう豊かな時間がわたしは好きだ。

 不思議だなぁと思う。こんなに充実しているというのに、お金はそんなにかかっていない。

 仕事に一生懸命だった頃は、給料がもらえなくなると惨めな生活に陥ってしまうとやたら怖がっていた。でも、いざ、仕事を辞めて収入が減ってみたら、それほど生活の質は下がっていない。

 忙しいときは時間がないので、なにもかもは自分でできず、お金を払って人にやってもらう必要があった。一方、暇なときはお金がないけど、時間はあるので、自分の頑張り次第でなんとかなる。案外、両者は甲乙つけ難い。

 とはいえ、それも現在のわたしだから、できるだけの話かもしれないし、病気をしたり、境遇が変わったりしたら、もっとたくさんお金を貯めておけばよかったと後悔するのかもしれない。

 しかし、そうだとしても、一巻の終わりだと思っていた状況になっても、人生は別に終わりはしないと知ることができた喜びに、まずはしみじみとした感慨を覚える。

 たぶん、客観的に、わたしは社会で負けてしまった。ただ、そのおかげで、いまは負けてもいいと思えるようになった。

 なるほど、人間、こうやって負けることに慣れていくのだろう。なんとなく、次、チャレンジするときはもっと余裕を持てる気がする。

 いずれにせよ、来年もまた梅の花をこんな風に見ることができたら、それだけで、すべてよし。

 ながーく生きたい理由が増えた。





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