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なぜ、プロ野球は二番バッターの打撃が弱いのか。

MLBは労使協定の交渉がまとまらず、もう3月というのに開幕に向けた情報が何もない。

一方で、プロ野球は順調にオープン戦が始まっている。

我が巨人軍に関しては今年は岡本の調子が良さそうで、昨シーズン終盤の悲劇的なスランプから立ち直ったようだし、投手、野手共に若手が育ってきていて今年は楽しみである。

さて、今日のBIG BOSS率いるファイターズとの一戦。

気になったのが打順、特に二番増田である。

原監督第三時政権発足後は坂本が二番に座り、三番にFAで加入した丸、前年に由伸監督の寵愛のもと覚醒した岡本が四番に座り、初回からの攻撃がうまく機能していた。

昨年、一昨年は二番に座っていた坂本の調子が上がらず、シーズンを通して二番固定とはならなかったが、ウィーラー、松原といったその時々で調子の良いバッターを二番に起用していた。

オープン戦の段階ではあるが二番増田には古典的な野球に回帰したようで、どうも違和感を覚えた。

実際、巨人以外にもプロ野球ではもはや習慣的に二番に打撃の弱いバッターを置く傾向がある。

特に昨年のDeNAは顕著で、1、3番の打率、本塁打数がそれぞれ.293/18、.304/25だった一方で、二番バッターは.215/4、出塁率に至っては.274と完全に打線が分断していた。


メジャーリーグでは昨年大谷が二番に座っていたように、二番にスラッガータイプを置くケースが多い。

エンゼルスはもともとM・トラウトが二番だったし、昨年のヤンキースはチームで最もOPSの高いA・ジャッジが二番バッターだった。

僕の記憶を遡ると、松井がMLBに挑戦した時に打率だけでなく長打力も高いジーターがヤンキースの不動の二番だったことはある意味カルチャーショックだったことを覚えている。

二番といえば、土井、もしくは川相のような小技が効くバッターが国民の総意である。


ということで今回は、なぜプロ野球チームは二番に打撃の弱い選手を置くのか考えてみた。その中でも神聖なる四番の存在平均的な長打力不足先発投手の投球数制限、この三点をポイントして挙げている。


神聖なる四番の存在


日本の野球は四番打者を神聖化している。もはやDNAとして本能的にこの思想が埋め込まれているのではないかとも感じる。

特に、日本の野球における四番原理主義を確実に実感したのが、この本である。



四番としてあるべき姿とは何か、と、チームの優勝の行方が同列に語られている。

著者はミスタータイガースとして阪神を背負った掛布氏である。人気チームの四番として試合に出ることの覚悟、責任は他のポジションとは全く異なるものだったのだろう。


DAZNで配信されている、ラミレスがホストを務めるBaseball Adventureという番組での原監督へのインタビューも日本の四番像を理解する上で大変面白い。



日本のチームで四番を務めることがどういうことなのか、外国人選手のラミレスの意見はなかなか説得力のあるものであった。

やはり、四番はチームの勝敗とファンの期待を数字で現れる以上に背負っている。


ということで、日本のプロ野球において打順はどうしても四番中心になる。

四番が決まった後は、四番に近い三番、五番を固め、その次に打力のあるクリーンナップの後の六番、七番にある程度長打力のある選手を置くという形になる。


要は四番中心の打順が暗黙の制約条件としてある以上、二番バッターの優先順位はどうしても低くなるのである。


平均的な長打力不足


プロ野球チームは慢性的に長打力不足と言っていいだろう。

昨年、チーム長打率が.400を超えたのは.402 のDeNAのみである。中日や日ハムに関しては球場の影響ももちろんあるが、たったの.330台であった。チーム全体が京田である。

一方、昨年MLBの最高はブルージェイズの.466である。プレイオフに出るようなチームは軒並み.450付近を記録している。


高い長打力の利点として、ランナー1塁のケースで得点が期待できるのである。現にブルージェイズは同ケースでこれもMLBで最も多い118打点を記録しており、長打力とランナー1塁での得点力には相関があるようである。


試合数が異なるのでMLBと単純に比較ができないが、プロ野球の場合、ランナー1塁での打点で昨年最も多くの打点を記録したのが75打点のヤクルト。チーム長打率の低かった中日、日ハムは共に40点台だったこともあり、非得点圏ではまず得点が期待できなかった。


そうすると、得点のためには如何にランナーを得点圏に置くかがキモになり、一番バッター出塁後、二番バッターがアウトになってもランナーを送るというのは合理的な戦術なのである。


そのため、二番バッターには打力よりも自己犠牲ができる選手が好まれる傾向があるのではないだろうか。


先発投手の投球数制限


MLBでは先発投手は100球が降板の目処になっている。

長いシーズン、中4日でローテーションを回す以上、余力を残した形でマウンドを後にすることは重要である。


一方、中6日でローテーションを回すプロ野球では特に球数の目処とするような数字はなく、調子のいい先発投手は終盤まで引っ張る傾向にある。


すると、先発投手の投球回に差が出てくる。

MLBは先発投手の平均投球回数が5回に届くかどうか、であるのに対し、プロ野球は5回後半から6回である。

この1回分の違いはあまりにも大きい。先発投手が5回までに降板する場合、中盤以降の打順だと同じ投手に対して2回しか打席に立てない。

MLBレベルの打者であれば、同じ日に3回も打席に立てば確実に順応できる。そのため、四番まで待たず二番に強打者を配置し、少しでも多く先発投手と対戦する機会を増やしたいのである。

一方、プロ野球の場合6回まで先発が投げると考えると三番、四番、五番バッターも先発投手と3打席対戦することができる。


また、MLBの場合は先発投手降板後も力があり、個性的なリリーフ投手が細かく継投してくる。そのため、試合を如何に早期決着するかは最重要課題なのである。



以上の背景からプロ野球は二番に打撃の弱いバッターを置く、もしくは置かざるを得ないのでないだろうか。

ある程度力のあるチームなら、プロ野球の王道打線を組むことは問題はないであろう。ただ、個の力が劣るチームに関してはある意味セオリーに反して二番にチームの強打者を置き、序盤から試合を主導するような戦い方をするのが良いのではないかと考えている。

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