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リョーリの部活 第1話~はじまり~

料理同好会というものが新設されたらしい。
入学して1か月も経たないこの時期に新設された同好会に入会するということはさほど負担でもないだろう。
大半の新入生がこの高校で新しい部活へ入部することを心待ちにしていたようだ。
春の風に誘われて華やいだ気分になってくる。

各々が興味のある部活動や同好会へ体験入部や仮入部をし、場合によってはそのまま入部して本格的に部活動に参加している人もいる。
中学と比べるとこの高校にはより多くの部活動や同好会が存在している。
何かしら自分の居場所とも思える部活動・同好会に出会えるのではないだろうか。
そんな思いで入学式を迎えた。

しかし、中学からの親しい友人もいない僕にとっては知らない人ばかりのいる環境へ飛び込んでいくことは勇気がいった。
そのため、躊躇してしまいどこの部にも入部できずにいた。
いっそ中学時代と同じ帰宅部にでもなってしまおうかとも考えた。
しかし、それをしてしまうとなんだかもの足りない高校生活になってしまいそうだった。

そんな時だった。
新入生ばかりが集まって作った料理同好会の会員募集のチラシが掲示板に貼り出されていた。
既存の部活動・同好会ではなく、新しくできたばかりの同好会ということなので人間関係もこれから作っていけばいい。
その時は僕にとって適材適所という言葉がばっちりあてはまる環境だと思っていた。
自分で言うのもなんだが僕は人間関係を築くのが苦手だ。
その反面、料理が得意だ。
頻繁にうちに遊びに来る叔母さんが栄養士をしており、結構いろんな美味しい料理を教えてくれ、ふるまってくれる。

小1の時に母さんが交通事故で死んでから父さんと二人暮らしになった。
正確には母さんと入れ替わるようにやって来た元野良猫のチコも入れると2人と1匹かな。
それから叔母さんが僕のことを気にかけてくれて週に1度は何かしら料理を作りに来て教えてくれるようになった。
そのおかげで世間一般の男子高校生と比較するとそれなりに料理の腕はある。
門前の小僧習わぬ経を読むというのはこのことなのではないだろうか。

早速昼休みに会員募集のチラシにあった「会長」の高橋真琴さんに会いに行った。
考えてみれば、このような用件であっても女の子に声をかけるということはほとんどしたことがなかった。
女の子に自分から声を掛けるのはどれくらいぶりだろう。
彼女の教室は1年4組、僕の教室(1年3組)のすぐ隣だ。

いざ女の子に声を掛けようとするとやはり緊張してしまう。
1年4組の教室の中を廊下から見回す。
女子グループの塊が6つほどあった。
あの中のどこかに高橋さんはいるのだろうか。

ドアのそばにいた男子生徒に申し訳なさそうに声を掛けた。
「すみません。高橋真琴さんいますか?」
「えっ、・・・」
男子生徒は一瞬こちらの声が聞き取れなかったようだ。
「マコト、呼ばれてるよ」
すぐに理解してこちらから1番離れた女子グループに向かって声を掛けた。
どうやら高橋さんはマコトと呼ばれているようだ。
僕なんてずっと大江君であだ名でなんて呼ばれたこともない。

男子生徒に呼ばれて軽く返事をし、こちらに向かってくる高橋さんは女の子にしては背が高かった。
170センチぐらいあったのではないだろうか。
僕と同じくらいだ。
髪は短めで目は大きくかわいらしい感じの女の子だ。
今は特に笑っている様子がないが、笑ったらもっとかわいらしい表情になるのではないだろうか。
こんなかわいらしい女の子と話すのはいつも以上に緊張してしまう。
「はい、高橋です」
 初対面の僕を警戒しているようだ。
「あの、料理同好会の会員募集のチラシを見たんですけど」
「入会希望なん? じゃ、1回体験してみいひん?」
 なんだかやり取りを1往復しただけで一気にフランクな話し方をされてしまった。
「今日は料理作らへんけど次何作るか決めるからよかったら見学に来て。放課後に調理実習室で待ってるから」
「分かりました。それじゃまたあとで」
僕は教室に戻り放課後の体験まで授業をやり過ごした。

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