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福島で酒をつくりたい 【読書感想酒日記】

今回の山形のタビで、何度も出てきたお酒を覚えていますか?
そう、「一生幸福」「甦る」「磐城壽いわきことぶき」などの銘酒を醸す、鈴木酒造店でしたね。

山形なのに、そういえば、なぜ、いわきなの?
と、思ったアナタ、スルドイ。

そう、「いわき」って、福島ですよね。


◇◇

色んな土地を楽しみながら、旅をしてきて、

あっ、ここは今来てはいけない場所だ。まだ、自分の中で消化しきれない、心の準備が出来ておらず、受け止めきれない。と、思った事が2回あった。

その内のひとつが、陸前高田りくぜんたかたであった。


自分が訪れた2017年、呆然と景色をながめた。それから、5年が経った。そして、再び自分の中で、被災地を再訪してみたいと思う気持ち、今度は受け止められるんじゃないか、という気持ちが、芽生えてきた。

そんなとき、


◇◇

山形を訪れた。

そして初日、居酒屋「やっしょまかしょ」で、最初の日本酒オーダーに対して、ご主人が「お~、長井のお酒ですね~」

と、語りかけてきた。
ご主人の地元である長井を自慢するような、それでいて哀愁を感じるような、不思議なまなざしであった。そして、2日目のお店「しょう榮」のメニュー、よく見ると、「磐城壽・長井蔵」って、書いてあるのに気づきましたか?

そうなんです、磐城壽いわきことぶきこと、鈴木酒造店は、福島県浪江町の海岸脇で、酒造りを営んでいる蔵でした。それが、津波で壊滅的な被害をうけたばかりか、となり町にある原発のせいで、故郷から退去せざるを得なくなった。


復活に邁進まいしんすることすら、叶わなくなったのだ。

それでも、復活できることを信じて、長井市で別の酒蔵を譲り受け、お酒を造り始めた。だから、長井蔵なのだ。だから、磐城なのだ。
そして、鈴木酒造店が譲り受ける前から、もともとその蔵で造っていたのが、なんという事だろう、「一生幸福」「甦る」という銘酒だったのだ。その銘柄も、想いも、そのまま引き継いで醸す運命が待っていた。


◇◇

それは、山形から帰って来た、次の日曜日。早朝のことであった。

のんびりと新聞を眺めていた。

ん?

オイラの地元新聞では、毎週日曜日に、おススメの書籍を紹介しているコーナーがある。そこの一節に、釘付けになった。(小さくてすいません・・)

8月28日付 中日新聞より


紙面には、一冊の紹介が

福島で酒をつくりたい ~「磐城壽」復活の軌跡 ~
(上野俊彦著、平凡社新書)


◇◇

興味があることに、アンテナは立つ。訪れた場所がテレビ・ラジオで流れると、「ん?」と耳をそばだてる。旅をすると、「あっ!」「おっ?」が増える。この時も、小さな記事に、アンテナが反応した。

早速ポチリ!

読了

なんという繋がり、今回山形に行かなければ、出会わなかった本。そして、鈴木酒造店の詳細も知らずに、過ごしていたと思う。

◇◇

日本は、長寿の企業が多い国。この本を読むと、その理由がわかるような気がする。

被災した鈴木家を受け入れ、自分の蔵の設備を一時的に提供する同業者。新たな場所での挑戦を、新参者の醸造家を受け入れる長井の地域住民。お酒をプロデュースして売り歩く酒販店、快く仕入れる飲食店、風評被害に悩む福島の米農家、自治体・・・非常に多くの、知人、友人、関係者が織りなす物語。

なんと、本文中に「らじょうもん(La Jomon)」のご主人こと、熊谷太郎さん(気仙沼出身)も登場! お酒をプロデュースした関係者のひとりであった。なんという繋がり。

そんな色んな方々の人生を、鈴木家の人々を中心につづった物語

東日本大震災、原発事故、いろんな想いがぶつかり交錯する、8年にわたる物語。日本の農業、伝統文化、地域振興・・色んな事を考えます。

そして蔵は、復活はできるのか!?


そして、末席で磐城壽を呑む、オイラ

◇◇

秋の夜長に、この本を読みながら、お酒を吞みませんか?

それでは、おススメのお酒を2本紹介しましょう。
お酒に興味の無い方は、スルーください。

まずは、一本目
<磐城壽 アカガネ(赤胴)>

よっ! 渋い!


まず、栓を開ける。
少し酸味のある香りが先行、その奥に正統派純米酒の香りが顔をのぞかせる。焦げたカラメルのような熟成香も少しちょっかいを出してくる。これらの香りだけでも、複雑さ奥深さを感じる。期待に胸が膨らむ。ワクワク

口に含むと、酸味が先発隊として舌を洗い流す。すぐそのあとに、お米の旨味がじんわりと舌に残る。そして、名脇役の苦味が、お酒に幅を与えてくれる。じんわりと旨いお酒です。

「サンマの塩焼き、もみじおろし添え」なんてどうかなぁ~、もしくはイカの一夜干し、醤油に合わせる薬味は生姜じゃなくて、柚子胡椒でどうだ。新鮮で肝まで美味しい魚介に、合うと思います。うへへへ


続いて、2本目!
<土耕ん醸(どこんじょう)>

後ろの酒瓶は、気にしないでね・・
ゴミの日(瓶の日)を忘れていたのだ・・


アカガネより「くせツヨ」。熟した古酒を思わせる、焦げた深みのあるカラメル香。日本酒のフルーティさは、みじんも感じない割り切りのよさ(笑)
お米は、福島の農家(丹野友幸)さんが丹精込めて作った酒米。そして、奇跡的に生き残った、浪江の蔵付酵母から醸したお酒。

まず、少し甘味を感じる酸味が、グイっとくる。甘みが口の上に広がる、下辺には酸味、奥行きに旨味と苦み、すごく色んな味が広がり、口の中がパラダイスになるお酒。今回は、冷酒で嗜んだが、熱燗にすれば、味がもっとワンサカ咲いて華やいだ旨さになると思います。屋外で月を見ながら・・

こちらは、「鯉こく」などの少し濃いめの魚介料理にぴったり。あと、「なめこと豚肉のバター味噌炒め」もいいなぁ・・ボタン肉があれば、もっといいかも・・

どちらのお酒も、酸味があるので、イマドキの料理にも合わせられる万能選手。古いようで新しい、和モダンな日本酒だ。日本酒がだーいすきという方におススメします。

お酒が呑みたくなりましたかー
本が読みたくなりましたかー

◇◇

最後に、現在の浪江町のお隣、大熊町の様子をお伝えしましょう。
おりちゃさんの記事をどうぞ



(おしまい)



山形で磐城壽が飲める店の記事は、コチラ



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