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【読書録】「AI vs 教科書が読めない子供たち」 新井紀子

概要

 著者はAIに東大を受験させ合格させることを目標にした「東ロボくんプロジェクト」を指揮した先生です。この「東ロボくんプロジェクト」でAIは最終的に東大に合格はできなかったものの、MARCHクラスの大学には合格することができました。AIが東大受験で最も点数が取れなかった科目が国語です。これはAIは「文章の意味を理解できず、確立と統計でしか物事を判断できない」からであると著者は結論付けています。この知見から著者は、文章の意味が理解できないAIがMARCHクラスの大学に合格できるということは、多くの受験生が文章の意味を理解していないのではないかという仮説を立てました。

高校生の3~4割が新聞の文章を理解できない

 著者が調査を行ったところ、高校生の3~4割程度が新聞の文章が理解できないレベルの読解力しか持っていないことが分かりました。また、旧帝大や早慶クラスより下のレベルの大学では学生の読解力の平均値に差はありませんでした。つまり、東ロボくんがMARCHクラスの大学に合格できたように、問題の意味を理解せずパターンを記憶しているだけの学生が3~4割程度いることをふまえると、AIに仕事を奪われるというのがより現実味を帯びてくるというのが本書の結論です。

人間が何らかの方法で正解をAIに教えなければならない

 よくフィクションの世界ではAIは自ら考えて行動する第2の人類のように描かれることが多いと思います。しかし、現在のAIは確率・統計を使ってしか判断を下せません。つまり高性能の計算機という枠を超えていないということです。
 また本書では「役に立つとは何か」を知っているのは人間であるため、AI自身が判断して何かできるわけではないと述べられています。人間が作り出すものである以上、人間が本質的に苦手なことはAIも苦手である可能性が高いです。このことを勘違いしている人が多いと著者は指摘しています。私自身、この本を読むまでAIが人類に追いつく未来はそう遠くないと思っていたので非常に勉強になりました。

数理モデル化することで豊かさが失われることの痛みを知っている人だけが、一流の科学者や、技術者足りうる

 言語化し数値化し測定し数理モデル化するということは、つまり「無理に片付ける」ことであると著者は述べています。これはサイエンスの本質をついている内容であると感じました。あらゆる法則は自然現象を人間に分かりやすい形で解釈したものに過ぎません。学生時代、研究室の先生から「我々人間が分かることなんて少ないのだから、簡単に思いついてやれることは全部やれ」といわれたことがあります。この時、20年以上研究を続けている先生ですら「分かることは少ない」と断言したことに衝撃を受けました。大学院を修了し、企業で開発系の仕事を何年かやっている今はこの言葉を痛感する毎日です。それでも分かることだけを組み立てて課題を解決することを諦めないことが科学者、技術者として大切だと思いました。

さいごに

 AIについてよくわかるだけではなく、高校生の3~4割が新聞を理解できない程度の読解力しかないという衝撃の事実を突きつける本でした。読解力についてはあくまで著者の研究であり、多くの同じ分野の研究者が同様の主張をしているわけではないとしています。しかしながらTwitterたtiktokの短いコンテンツが爆発的に普及したことを踏まえると、多くの人は母国語であっても長文を理解するのが苦手なのではないかと感じました。また、著者の研究では最終的に読解力を後天的に伸ばす方法は見つからなかったとしています。小さいころからの読書習慣の有無等も相関はなかったらしいです。もしも後天的に読解力を向上させる方法を見つけることができれば、ノーベル賞級の成果かもしれないと思いました。 

参考文献

新井紀子(2018) 「AI vs 教科書が読めない子供たち」 東京経済新報社


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