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ナカさんの読書記録 「高濱虚子 並に周囲の作者達」水原秋櫻子

俳句の先生が紹介してくださった本です。先生は高野素十の俳句を手本にして写生俳句の基礎を教えてくださっています。この本には素十がどんな人だったかや虚子やその周辺にどんな俳人がいたかなど書いてあるのでぜひ読んでみてくださいとの事。さっそく図書館で借りて読みました。

大正2年に虚子が俳壇に復帰してから、当時は「俳壇=ホトトギス」というくらいに虚子の影響力は大きなものでした。雑誌ホトトギスの雑詠欄に自分の俳句が掲載されるということは一種ステイタスだったようです。
水原秋櫻子と高野素十いえばホトトギスの「4S」と呼ばれるうちの一人です(水原秋桜子・山口誓子・阿波野青畝・高野素十)。
秋櫻子の性格は真面目、素十は自由奔放、性格は違えども一緒に野球をしたりと仲が良かったようです。医学大学で一緒に学んだ学友でもあります。
秋櫻子が虚子に惹かれていき、やがて虚子の考え方に違和感を感じホトトギスから独立していくまでの話ですが、心の揺れ方がとても興味深かった。
虚子に対して憧れや尊敬の念を抱く秋櫻子。虚子を”信仰”する俳人が増え、どんどん巨大化するホトトギス。自分より遅れて俳句を始めた素十が、自分よりも虚子に高く評価されていくことを面白く思わない秋櫻子。

『素十の態度は最も虚子に従順だったと言ってよいであろう。素十は虚子の選に不服を抱いたこともなく、虚子の作句はすべて好意的に解釈している。ある時、虚子が私と素十とを前に置いていった。「子規の晩年ですが、私と碧梧桐に向かって、清さんは素直だが、秉さんはすぐ反撥するねって、言ったことがあります。」それをきいて素十が笑い出した。「おい、いまの先生の話はね、お前がつまり碧梧桐だっていうことだよ。」』
自分の尊敬する師からこんな風に言われた秋櫻子はどんな気持ちだったでしょう。素十がアッケラカンと言うから三人で笑ったのでしょうけれども、内心はドキっとしたことでしょう。心の揺れ動きが感じられる一文です。

秋櫻子の初句集「葛飾」の原稿に目を通した虚子と秋櫻子の場面。
『発行所には虚子がひとりでいた。原稿をさし出すと、それを受け取ったのち、「葛飾の春の部だけをきのう読みました。その感想をいいますと・・・」ここでちょっと言葉をきったのち「たったあれだけのものかと思いました」と言った。私は「まだ勉強が足りませんから」と答えたが、心の中でやはり想像していた通りだと思った。(略)虚子はまたしばらく黙っていてから「あなた方の句は一時どんどん進んで、どう発展するかわからぬように見えましたが、この頃ではもう底が見えたという感じです」と言った。これもまさにその通りかもしれないと、私は心の中で苦笑しながら返事をしなかった。』冷酷な虚子の一面が出た場面だと思います。ゾッとしました。

やがて秋櫻子はホトトギスを離れ、馬酔木を創刊して活動の場を移していき、やがて新興俳句の流れに繋がっていきます。
秋櫻子27才(大正8年)頃から39才(昭和6年)頃までを描いたこの本は、大正~昭和初期の俳壇ドキュメンタリーでありますが、青春小説のように面白かったです。ドラマ化したら面白そうだなぁと思いました。

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