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最恐賞をいただきました(2023年9月)

2023年9月の竹書房さんのマンスリー怪談コンテストにて、「娘の腕」という作品で最恐賞をいただきました。読んでいただけると喜びます!

https://kyofu.takeshobo.co.jp/2023/10/15/202309/


あと、応募の過程でボツにした話を供養のために公開します。なむなむ。
あれこれ甘いですが、お読みいただけると幸いです。


「もう少しだったのに」

Nさんが大学生のときの話。

Nさんは正月休みを利用して、故郷の町に帰省した。大学生になってから遊ぶことに忙しく、数年ぶりの帰省だったという。

様変わりした町を眺めながら、のんびりと家に向かう。住宅地が途切れて神社の前に差し掛かったとき、ふと足が止まった。

神社の隣には雑木林があり、その中に柵で囲まれた池があった。その池を見た途端、Nさんは唐突に男の子のことを思い出した。

小学生の頃、同級生と池で遊んでいたことがあり、その男の子が池に落ちた。近くにいたNさんはとっさに手を伸ばしたが届かず、男の子は水面に吸い込まれていった。慌てて大人を呼んだが、助けることはできなかった。

ここに来るまですっかり忘れていた。つらい記憶だから、思い出さないように意識に蓋をしていたのかもしれない。思い出した途端、Nさんの胸に、強い後悔の念が押し寄せてきた。

もう少しだったのに。
もう少しで助けることができたのに。

そうだ、いっしょに池に落ちるのが嫌で、手を伸ばすのが少し遅れたのだ。その迷いがなければ、きっと助けられた。
あのとき、もう少し早く手を伸ばしていれば…。

気配を感じて顔をあげると、小学生くらいの男の子が池の淵で遊んでいるのが見えた。そんなはずはないが、どことなく、池に落ちた男の子の面影がある。見ているうちに、男の子がバランスを崩して池に落ちそうになった。

今なら、助けられる。
あのときは助けられなかったけど、今なら。
とっさに駆け寄ろうとしたそのとき、手を後ろに引っ張られた。

「お前、何やってんだ!」

手を引っ張ったのは、小学生時代をともに過ごした地元の同級生だった。状況を説明しようと池に目を向けたが、男の子はおらず、水面は静かなままだった。

Nさんは男の子が池に落ちそうになっていたこと、その男の子が以前池に落ちた男の子に似ていて、助けなければいけない気になったことを話した。しかし、話を聞いた同級生は怪訝な顔をした。

「ここで池に落ちたのは、お前だぞ」

同級生の話はこうだった。みんなで遊んでいるとき、Nさんが急にふらふらと歩き出して、ストンと池に落ちた。もがきもせずに沈んでいくNさんを、みんなで必死に引きあげたのだという。

「ここ、たまに飛び込むやつが出るんだ。それで死んだやつもいる。気味の悪い社もあるし、あんまり近寄らんほうがいいぞ」

同級生の目線を追うと、池の反対側に崩れかけた祠が見えた。

祠がNさんのことを、うらめしそうに見ているような気がして、Nさんは同級生との話もそこそこに、足早にその場を立ち去ったという。

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