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『砂漠』伊坂幸太郎

無駄であれば無駄であるほど良い。
無意味な時間を一緒に過す仲間がいれば、さらに良い。

『砂漠』解説より

本書の解説を手掛けた吉田信子さんによる、「大学生活とは」における見解である。

私はこの意見に、大賛成だ。

近年は就職活動の早期化に拍車がかかり、大学1、2年の頃からインターンに参加する学生が増え、「早期選考」なんてものも存在する。

早い段階で「就活に有意義な活動」に取りかかり勤しむ人たちに、すごいなあと思いこそすれど、私は自分自身が「それがしたい」とは思わなかった。

インターンなんて、大学を卒業して社会に出たら、国民の義務を果たすために否が応でも40年近く働くというのに、
なぜ学生の内から先駆けて「プレ社会人」みたいなことをやらなくてはいけないのかわからず、ちっともやりたくなかった。から、やらなかった。

文庫本についてたしおり
ゆるい
🐬

アルバイトに励み稼いだお金を使って、免許を取って遠出をして、飲み会に参加し、一人旅をして、留学に行き、本と洋服を買った。

大学で出会い、一緒にお酒を飲み旅行に行く友人ができた。

自分が好きで興味がある勉強には積極的に取り組み、好きではない分野もほどほどにやりこなす要領を覚え、単位は一つも落とさなかった。

そして今、必修である第二外国語の中国語とゼミの他に、翻訳英語とプログラミング言語の授業を受講し、大学卒業見込みの四年生の秋を過ごしている。


アパレルでせっせと服を畳み、居酒屋で一生懸命ビールと泡で7:3の割合を作り、得られた給料で購入した一冊、伊坂幸太郎さんの『砂漠』。

アルバイト先の先輩と晩夏に滑り込みで
かき氷を食べに行った時に、教えてもらった本。

通学用リュックの中

仙台の国公立大学に入学し出会った男女5人が、集まって麻雀を打ち、定食屋で定食を食べ、観たい映画を観て、恋愛のために格好いい服を買う。

将来に役立つ情報など一つも載っていないが、
ラモーンズを聴いてみたくなり、試着後に「格好いいですか?」と聞ける西嶋に会いたくなり、麻雀を覚えたくなる、
社会という砂漠に出る前に、出会えて良かったと思う本だ。先輩ありがとう。

無花果
🍧

私の「就活性」としての戦闘力はマリオのクリボー並みで、踏んだら一発で倒れるよわよわ数値だが、
吉田さん基準の「大学生」としての戦闘力は、もしかしたらパックンフラワーくらいあるんじゃないか、と元気づけられる一冊である。

「人間にとって最大の贅沢とは、人間関係における贅沢のことである」

『砂漠』中の『人間の土地』より

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