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2021年 25冊目『クライシスマネジメントの本質 本質行動学により3.11大川小学校事故の研究』

エッセンシャル・マネジメント・スクール(EMS)代表の西條剛央 さんの本です。
私も0期、1期、3期でベーシックコースとアドバンスコースで学びました。

論文も読みましたし、大川小学校に通っていたお嬢さんを無くされた佐藤敏郎さんのお話も合計3回伺っています。

事前のインプットがあったのもあるのですが、素晴らしい科学的研究成果だと思います。


大川小学校事故とは、3.11の時に様々な被害が起きました。
ところがこと学校管理下では、災害への準備(もちろん場所など幸運もあるのですが)などのおかげで、ほとんどの学校での被害は最小限で済みました。
各校でも数名でした。

ところが大川小学校では73名の児童と11名の大人(教師やバスの運転手など)が犠牲となり、生存率5.6%という戦後教育史上の惨事が起きたのです。
ところが学校も教育員会も(誰かの落ち度が発覚すると自分の責任になることもあり)事実を曲げた報告をしたのです。

当然ですが、遺族は憤ります。
西條さんは、自身の質的研究方法SCQRMを活用し、本質を把握しようと試みます。
それを上述の論文や冊子にまとめていました。
この本はそれの集大成ですね。

一番最初にカラー裏表で
・大川小学校の事故はなぜおきたのか
・大川小学校の事故における意思決定の停滞を招いた心理的要因に基づく構造
がまとめられています。
これがサマリーです。

なぜ、この結論に至ったのかが、本文で書かれているという構造です。
いくつもなるほどなって思いました。
その場には校長がいませんでした。
教頭がリーダでした。

校庭に生徒を整列させます。
小高い裏山に登ろうという先生や教頭も発言します。

直前の避難訓練で校長が校庭に整列させて、そこで終わった事。
自分自身が裏山に上らせた1年前のペルー地震で何も来なくて気まずい経験をしたいという逆作用があったこと。
声の大きな先生が裏山に上ろうとした子供を連れ帰った事。
生徒を連れ帰りに来た親に対しても校庭に残ると良いと声の大きな先生が言っていた事。
教頭は裏山に上ることを父兄にも相談するのですが、残っている親は、津波は来ないと思っている逆淘汰が起きていたこと。
津波は海に近い所だけで起きるというバイアス(大川小学校は海岸から4㎞離れている)
津波より地震が怖いので山には登れない(1人でも怪我をしたら責任になる)
などがあいまって、結局津波がやってくる川の小高い場所を目指します。

当日の判断もそうなのですが
その前に、実は避難マニュアルや避難訓練が形骸化していたのです。
事故の4年前にこの校長になってから、様々な活動が中止になり、避難マニュアルも山梨県のひな型をそのままコピーしたものだったのです。
これ以外にも様々な活動が中止になっていました。

何もしない、事なかれ、形式主義のリーダだったようです。
遺族は、なぜこんなことが起きたのか究明を求めました。
しかし、学校も教育委員会も県の第三者委員会も遺族の要望を聞いてくれません。
学校や教育委員会は、唯一の生き残りの先生と話をすることを拒みます。
子供の発言も原本を廃棄し、遺族が求めていた発言は報告書に書かれていません。

ハザードマップを作った東北大学の教授(つまり利害関係者)が第三者委員会に入り、自分の娘の会社にレポート作成を5000万円以上で発注します。
そして出て来た報告書は、避けられなかったというものでした。

遺族は(やむに止まれず)訴訟を起こします。
一審は、当日の教師たち(だけ)が問題だったと勝訴。
しかし、両者とも納得できず、控訴。
控訴審と最高裁では、学校と教育委員会も責任があると14億円の賠償金が確定しました。

組織(という実態が無いもの)を守るという事で、真実を隠そうとする人たちがいます。
日本企業の不祥事も根っこは同じですよね。
この本から学べることがたくさんあります。

私にとって、良い本というのは、この書評を書く際に、もう一度本を開けないでもかける本です。
内容が分かりやすく頭に入ってくるからです。
この本は、そんな1冊です。

災害時にどうやって正しい判断をするのか。
それは、まずは命を守る事。
避難するのではなく、命を守ることを優先する事です。
学びが多い本です。

ぜひ、手に取ることをお薦めします。

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