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雑感84 失敗

 翌日は休日という夕方、仕事帰りに百貨店に立ち寄った。買い物しようと思ったのではない。単純に、気晴らしがしたかったのだ。
 1階から順に、フロアを見て歩く。最初に上階に上がって、次第に降りていく方が効率がいいけれど、その日はワンフロアずつ上がっていくことにした。女性ものから男性ものへ、服飾フロアから日用品フロアへ。長年変わらない百貨店の構成ではあるけれど、どこか非日常のニュアンスをもつ品々は、眺めていて楽しい。
 最後に地下まで、一気に降りた。その日の夕食に、何かいい塩梅のものがあれば、と考えていた。ふらふらとデパ地下を歩くも、以前のようにショーウィンドウが満ちていなかった。できるだけ売り切るという店側の決意が、冴え冴えとした照明に照らされているようだった。
 人が混んでいるエリアを抜けたところに、炭火焼の焼き鳥が売っていた。大小のパックが並んでいる。足を止めて眺めると、店の人の説明が始まる。説明をほぼ聞き流して、どうしようかと考える。そっと値段を確認する。648円。まあ、このパックの大きさならいいか。
「じゃ、これを1つ」
 大きなパックを指さした。店の人がパックを手に取って、秤の上に置く。
「1365円ですね」
 頭に大きな“?”が浮かぶ。秤に表れた数字を見つめて考えた。店の人が少し怪しむほどに、わたしの動きが止まっていたのだろう。顔を上げたら、店の人に見つめられていた。
 ああ、そうか。価格は100g単位だったのか。数字じゃなくて、店の人の表情でわかった。理屈ではなくて感覚で読めたみたい。
 素知らぬ顔で支払いをする。うーん、失敗した、久しぶりに。たぶん、もうこの店では買わないな。
 そう思いつつ、焼き鳥を皿に並べ、口に放り込む。塩味が効いて、美味かった。

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