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根腐の腐風(こっぷのふっぷ)

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初めて短編小説を書き始めました。 少しずつ書いていきます。 お暇な時に、宜しければお読み下さい!
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記事一覧

根腐の腐風 風力5

グラウンドでは追い風相撲部の部員達が背中の翼を畳んでいる。
稽古の辛さに耐えきれずヌフグフと奇声を挙げる者もいた。
件(くだん)の教室の窓には月明かりが差し込み、まるで舞台が終幕を迎えるかの様であった。
が、少年達の困惑の毛糸は尚も縺れ固まっている。
暫しの静寂を掻き分け、徹が言課した。
「城宮は黙ってろ!」
誠は幻惑に嵌った。
「コイツはこの娘を知っている?」
不可解なリアルに誠は、震え脚腰保

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根腐の腐風 風力4

旨垣徹(うまがきとおる)は祖母のシヅと二人で暮らしている。
徹には両親の記憶が無い。
シヅは徹の両親について話す事はしないし、彼もまた、シヅに両親の事を尋ねる事はしなかった。
朧げな記憶の毛糸を手繰り寄せ、脳内ハイツのロフト部分に浮かび上がる故像は、赤子の頃おしゃぶり代わりに咥えさせられた、モックモーターやノズロシャーだった。
徹には幾つかの確信があった。
「俺の両親は風発の人間だ」
彼は記憶の断

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根腐の腐風 風力3

夕陽がグラウンドに校舎の長い影を伸ばし始めた。
その隙間からウインドバレー部の部員達の軽やかなウイングステップが見え隠れしている。
影の主の中央部に当たる教室内に誠の怒声が散散めいた。
「知らないのに何故オランダの話をした!?一瞬だけ、本場オランダの風発を知らない僕が悪いのかと思ったじゃないか!」
顔を赤化させてそう言った誠とは真対照に、旨垣は朴訥に返弁した。
「知らなければオランダの話をしち

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根腐の腐風 風力2

先崎誠(せんざき まこと)は先崎家の長男として産まれた。
一人息子である。
父の潮彦(しおひこ)は特殊風量頂戴学の学者として、国内の複数の大学で講師を務めている。
「風量と錬電量は常に正比例する」と改めて唱え賞賛を浴びた、その道では知らぬ者がいない程の風発人だ。
母の海江(うみえ)は大手家電メーカー、株式会社nosummer(ノサマ)の製品開発部長として国内外から一目置かれる存在だ。
「羽根なし扇

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根腐の腐風(こっぷのふっぷ)

「ちゃんとしろよ!」
そう口火を切ったのは、誰の目にも一番ちゃんとしていない旨垣(うまがき)だった。
学園祭を目前に控えた山田高校三年二組特殊風量頂戴科、通称[風向き科〕に珍奇な風が吹き申した。
「お前がちゃんとしてないから、ちゃんとした人間が帰ったんだよ!」
そう言い返した先崎(せんざき)の言い分はもっともだ。
風向き科による今年の学園祭の出し物は、先崎の提案した[風力発電によるスマホの充電]

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