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【エッセイ】モーニングコールを募る。



 ここ数年、寝起きが悪くて困っている。
あまりに起きられないので、スマートフォンのアラームを、起きなければならない一時間前から五分刻みに鳴るように設定している。
しかし、それでも起きられないことは珍しくない。二十二歳になっても恥ずかしながら、同居している母に「いい加減起きなさい」と布団をひっぺがされ、顔をペチペチと刺激され起こされることも多い。駄々をこねながら、渋々起きるのである。
母が家に居ない日は、予めFacebookで「誰か明日七時に電話を鳴らしてください。私を起こしてください」と投稿することもある。全世界に自分の怠惰を晒しているようなものだが、仕方ない。
そうすることで、有難いことに毎回、誰かが私にモーニングコールをしてくださり、怒涛の着信音、通知音の数々によって、私はなんとか起きられる。
こんな怠慢な女に手を差し伸べても得なんか一つもないのに、私の周りは、なんて優しい方ばかりなのだろう。私がこれまで、五分程度の遅刻をすることはあっても大遅刻はせずに済んでいるのは、こうした支えがあってのことだ。

それにしても…。こんなにも苦労し、誰かの手を借りてまで、私はこの先も、眠気と闘いながら起きなければならない日が続くのだと思うと、憂鬱で仕方ない。

出来ることなら、昼過ぎまで毎日眠っていたい。眠るのにも飽きた頃、朝のニュースではなく、ヒルナンデスを見ながら、ゆっくり支度をしたい。「ナンチャンは今日も頑張ってお仕事しているんだなア」と、多少、ナンチャンと勤勉さと私のだらしなのなさを比較し劣等感に駆られることはあると思うが、それでも昼過ぎまで眠れる快楽を手に入れられるのならば、どうってことはない。今、私は社会人で、寝ぼけたことなど言ってられないのは承知の上、それでもやっぱり辛いものは辛いのだ。


ところで、ある日、鳴り止まないモーニングコールを聴きながら、「ああ、もう嫌。政治家になれたらいいのに…」と思ったことがあった。
例えば、
「君、どうして寝坊したんだ!」
 と誰から問われたとする。一般的な学生や社会人の場合、言い訳することなく
「すみませんでした」
 と誠心誠意謝罪するのが、常識だろう。
しかし、政治家は違う。
「布団から出られなかったが、寝坊をしたわけではない」
「私の瞼が鉛のように重く開かなかったが、寝坊をしたわけではない」
などと、答えれば良い。理屈にもなっていない屁理屈だが、一応言い逃れには成功する。「募っていたが、募集していない」戦略だ。同じ意味を持つ言葉を対義語として扱い、本来の言葉の意味を殺す。…まあ、そもそも政治家の仕事の大半は居眠りをすることだから、言い訳すら要らないのかもしれない…、ああ!そうか。居眠りが仕事だから、居眠り運転が一般人より罰せられないのか…。ナルホドナ。
勿論、皮肉です。
私は、人に大迷惑や被害を与えてまでも、ピースカピースカと眠っていられるほど、倫理観は損なわれていないし、面の皮も厚くないと思っている。
万が一、私が「いつまでも眠っていたい」。そんな不純な理由で、選挙に立候補しそうになった際には、皆様には全力で止めていただきたい。
後は、今後も、引き続きモーニングコールのご協力をお願いしたい。「遅刻をしないように」ということは勿論、人の優しさに触れている間は「真っ当に生きよう」と自分を律していられるからだ。人任せで申し訳ないですが。






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