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ロックダウンに暴動で食料難..機内は意外に陽気?〜辛酸なめ子の「LAエンタメ修行 伝聞録」

5月に、LAに帰る直前のMutsumiさんに都内で会い、老婆心ながら日本よりも新型コロナ感染者が多いアメリカに向かわれることに一抹の心配はあったものの、Mutsumiさんなら何かに守られているから大丈夫だという予感もありました。その時聞いたのは、デルタ航空で羽田から出発する、というお話。Mutsumiさんはデルタ航空一択といってもいいくらい気に入っているそうです。

「デルタ大好きなんです。料理もおいしいです。日本の航空会社のCAさんみたいに、常に笑顔で同じテンションじゃなくて、イライラしている人やノリが良い人もいるんですが、そういうところも好きなんです。いつもビジネスにしちゃってたんですけど最近プレミアムシートというのができてお手頃な価格でシートも食事もいいしオススメです。今回は機内の飛沫感染も心配だったので念の為ビジネスにしました」

飛行機の機内は頻繁に空気が入れ替わっているようですが、シートポケットはかなり汚いと最近ウェブの記事で目にしました。アメリカの掲示板サイトが発信源の情報で、それによると飛行機の中で一番汚い場所のひとつで、「絶対物を入れない方が良い」と客室乗務員のコメントが添えられました。ゴミを入れたり足を突っ込む人もいるそうです。
Mutsumiさんによると注意すべきポイントは他にもあるとか。

「LAでは保安検査の物を入れるトレーもかなり汚いです。靴とか入れる人もいるので。あそこに入れたら全部拭きますよ」
私も搭乗時は見るからに汚いトレーに私物を入れなければならないのにいつもストレスを感じていました。このご時勢なので入れたものは消毒液で拭いた方が安全です。

そんな事前の不潔リスクについてお話を伺い、無事にLAに到着されたか気になっていましたが、数週間後電話で近況を伺うことができました。

「デルタ航空、すごい良かったんです」
電話口から想像以上に明るいMutsumiさんの声が聞こえてホッとしました。

「羽田空港はガラガラでした。普通だったら荷物検査のときマスクを外すのですが、今はマスクしたままチェックする流れになっていました。デルタのカウンターの女の子といろいろ喋ってたら気付いたのですが、みんな意外に超元気なんです。客が少ないから余裕があるんだと思います。コロナ騒ぎの最初の頃は不安も大きかったと推測しますが、今は少し慣れてきたのかもしれません。基本的に暇だから一人に対してすごいコミットしてくれるんです。カウンターの女の子は、乗り継ぎ便の混雑状況や、免税店がどのくらい開いてるかとかまで教えてくれました」

空港の地上職の人とそこまで会話できるとは。その受付の女性の言うとおり免税店は快適で、店員さんも皆親切だったそうです。

「免税店は貸切状態でした。私は手荷物でギターを持ってたのですが、レジで預かってくれたりお酒はこれが良いんじゃないかとかアドバイスしてくれたり、何しろ楽しかったです。飛行機の機内に入ったら、今度はCAさんが超元気なんです。みんなすっごい楽しそうでペチャクチャおしゃべりしていて。私が乗った飛行機は機内合わせて30人くらいしかいなくて、どこに座っててもいいよって言われるし。ウェルカムドリンクにシャンパンを選んだら、CAさんが『この2週間誰もアルコール頼んでくれなかったから、シャンパン頼んでくれて嬉しい』って喜んでくれました。勝手に悲壮感漂ってるのかと思ったらなんか生き生きしててみんな楽しそうでした」

航空会社の経営状況は厳しくて、破綻する会社も出てきそうですが、デルタ航空に関しては、4月末に「破産法適用からの脱却を発表した」という明るいニュースが。低金利融資を受けたりして再建計画がうまくいきそうな見通しのようです。スタッフのポジティブさにもそんな理由があったのかもしれません。

ロックダウンより厳しい食料難!?

そして無事にLAに到着したMutsumiさんを待ち受けていたのは、新型コロナ対策のロックダウン、それに続く全米各地の暴動でした。

「ロックダウン中はホールフーズもトレーダージョーズもやってて、レストランも割安でテイクアウトできるし、そんなに不便は感じませんでした。暴動まで平和だったんです」

ミネアポリスで黒人男性フロイドさんが白人警察官によって地面に押し付けられ、呼吸ができなくなって死亡したといういたましい事件を発端に起こった、人種差別に対する抗議デモや暴動。Mutsumiさんの住むLAでも暴動や略奪が発生し、夕方から朝まで外出禁止令が発令されているそうです。電話からも頻繁にサイレンの音が聞こえて緊迫感が伝わってきます。

「ここ3日間外出禁止令が出てるんです。お店もウーバーイーツもやってないです。食料がなくなってきたので外に出たら近所の店が全部閉まってて。建ち並ぶマンションの入り口も板で全部塞いでました。高級マンションではイカつい傭兵みたいなセクュリティを雇ってましたね。ライフルを持ったアーミーがうろうろしててすれ違うのが怖かったです。スーパーもやってなくてロックダウンよりよっぽど辛い。今は家にストックしてたインスタントラーメンとか米とかでしのいでます。銀行に振込に行こうと思ったらベニヤ板真っ最中でした……。LAの暴動は騒ぎ大きくするために集まった人たちもいるみたいで、コロナの鬱憤やイライラをぶつけまくってる。日本やアジア圏よりも怒りを暴力で発散するのがすごいです……」

淡々とトークしていますが、そんなハードな日々を過ごしているとは。エンタメ業界の本場で映画製作する女性の生き様をレポートさせていただくという主旨の連載でしたが、世界的な大きな変化の波に巻き込まれ、想像しえなかった事態になっています。今は映画製作は一旦休止で企画や脚本を練る段階だそうですが、コロナや暴動といった試練を乗り越えたことで連帯感が生まれ、エンタメ業界全体の結束力も強まりそうです。連帯感といえば、LAでは近所の情報を一括するアプリがあるとのこと。

「こっちはローカルエリアの人しか入れない、ネクストドアっていうソーシャルネットワークアプリがあるんです。近所のどこで強盗があったとか、ボヤが発生したとか、どこで何人コロナの人が出たとかわかるようになってる。うちの夫が入ってるんですけど結構便利です。ガレージセールの情報とかもありますよ」

回覧板がバージョンアップしたような感じでしょうか。ちなみに日本には「まちBBS」という匿名掲示板がありますが時々荒れることもあります。アメリカのネット社会の方が節度が保たれてそうです。

「でも路上で驚くようなことはあります。先日、買い物に行くため歩いていたら目の前で車が停まったんです。急に女性が降りてきたと思ったらゲホゲホ激しい咳をし出して。えっ?と驚いてたら「私はコロナじゃないのよ!!」と叫んでました。たまにそういう変なシーンに遭遇しますね」

目の前で咳&叫ばれたら警戒してしまいます。アメリカ人は普段から声が大きいイメージなので飛沫リスクも高いです。さらに土足文化もウイルスを室内に運んでしまいそうです。

「最近土足がコロナを家の中に持ち込むって知ってる人も多いらしくて、ドアの前で靴を脱いでる人も見かけます。玄関マットを置く風習がないみたいで。マンションのドアの前に靴が並んでますよ」

それも盗難の危険があるような……アメリカはもはや性善説なのか性悪説なのかよくわかりません。善悪のギャップも激しそうです。「正義が悪か二分化では考えられない」とMutsumiさんはおっしゃいますが、善と悪、ネガティブとポジティブ、愛と怒り、優しさと暴力が渦巻く国。それがアメリカの刺激だったりエネルギーの源なのかもしれません。

「ロックダウンや外出禁止令で不便でも不思議と日本にいるより気分がいいです」とMutsumiさん。今、混乱とカオスのボルテックスから生まれようとしている新しいエネルギーを吸収することで、またさらに人としてアップグレートされるのでしょう……。

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